たけひろ

女王陛下のお気に入りのたけひろのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.0
宮廷を舞台とした泥んこデスマッチ。

しかも臭い泥。

傷は勲章、と言わんばかりの、レイチェル・ワイズの底無し沼感、ぶれない愛、凛とした格好良さ、哲学のある生き様に一票。

どん底まで落ちた人間の逞しさを感じたし、映画史上、最高にロマンティックな結婚初夜だったよ、エマ・ストーン。

そんなふたりは、アカデミー賞の助演女優賞に同時にノミネートされているけれど、裏では本作のような泥どろの関係で、アカデミー会員に根回ししまくりの、醜い争奪戦を繰り広げているそうですね。(妄想)

汚れ女王のオリヴィア・コールマン、情緒不安定のかまってちゃん全開で、パワハラも酷かった、というのは褒め言葉。

アカデミー賞の主演女優賞、おめでとうございます。

愛とユーモアにあふれたスピーチ、最高でした。

顔面白塗りの貴族だったニコラス・ホルト、来世はきっと、顔面白塗りのウォーボーイズ。

裸のおじさんにオレンジをぶつけまくる、貴族の遊びの謎シーン、唯一あそこだけは3Dで観たくなった、無駄に。

なんなら4DXでも観たいかも、オレンジの香りとか、当たる衝撃とか、飛び散る汁とか、スローモーションで、無駄に。

それはさておき、ヨルゴス・ランティモス監督の過去作と比較すると、悪趣味と不条理と変態は控え目だったので、ちょっと意外。

史実とは違ってしまう次元にまで飛躍して、もっともっと狂ってゆくのだろうな、どうぞいっちゃってください、と期待してしまった、勝手に。

本作では脚本を書いていないからかな。

アビゲイルがサラを出し抜いて蹴落としたのは、単なる野心、であったり、従姉妹への対抗心、だけではなかったように感じた。

あの手前で満足すべきだった、にも関わらず、あそこまでに至ってしまった、彼女のモチベーション、或いは、業までもが、葛藤も含めて描かれていたなら、もっとドラマ性が高まったかも。

ただ、それでは監督の作家性とは合わなそう。

アビゲイルは純粋にアン女王を愛していた、とか、アビゲイルの父親の没落にサラが関与していたので復讐、とか、そういった背景があるならば、モチベーションに関してはあっさり解決してしまう。

が、そんなわかりやすい設定も監督は嫌いだろうな、おそらく。

本作は、私のお気に入り、とはならなかったけれど、撮影手法についても、メタファーについても、興味深く観た。

必殺、絵画のような超広角レンズからのパン。

気持ち悪くて気持ち良かった。

え、嘘、全てのカットを自然光で撮ったの???

だとしたら驚愕だし、不勉強で存じ上げなかったのですが、撮影監督のロビー・ライアン、心から尊敬しちゃいます。

タイポグラフィへの偏執的なまでのこだわりも面白かった。

そこまでやるのかと、エンドロールのクレジットで笑わされたのは初めて。

印象的だった、アヒルレースと鳥撃ちと「Skyline Pigeon」。

原題「The Favourite」の意味する対象とは。

兎。

欲望と愛憎の果ての虚無。
たけひろ

たけひろ