垂直落下式サミング

女王陛下のお気に入りの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
5.0
18世紀初頭イングランド、体調が優れないアン女王は、側近のサラに意思決定を半ば代行させている状態で、事実上、サラが宮廷内で権限を握り国の政治を取り仕切っていた。そこに没落貴族の娘アビゲイルが侍女として召し抱えられ頭角を表したことで、女王の求愛を得るための駆け引きが展開され、其々の運命を狂わせてゆく。
フランスとの戦争も民衆の苦しみも何処吹く風と、享楽をむさぼる宮廷人の生活が華やかに描かれるわけだが、そこは誰も彼も、女王でさえ、立場と身分に縛られる、むしろ自由のない牢獄のよう。毎日おなじ廊下を行ったり来たり、それをとらえる広角レンズ、魚眼レンズ、中心以外は重要じゃないかのような圧縮された怪しい歪みによって、アンとサラのその蜜月な秘密、アビゲイルのうちに秘めた野心、それらは覗きこむ下々民の目には隠されている。
そのような閉塞から鮮やかに脱してみせるのかと思いきや、本作の閉じた世界はさらに狭く深く閉ざされて、最後にはその体温までも失ってしまう。
飾りの女王、支配する女、成り上がりの毒婦、愛を欲したものは愛を失い、地位を守ろうとしたものはその座から転げ落ち、他人を蹴落としてでも勝ち上がることに執着したものは、どうあがいても勝てない相手を敵にまわす。結局、誰もが誰かの支配から逃げられないまま、選択と行動の結果、ひとりひとりに告げられるゲームオーバー。
あのうさぎの名前はなんと言うのだろう。籠の中から出された17羽は、女王陛下が愛した子供たち。アビゲイルは名前を知っているはずなのに、ことを成したら興味を失ったのか。彼女にとってはペットの名前なんて、くだらない穴埋め問題とおなじ、空欄を埋めて試験に通りさえすれば、あとは用なしの赤本だった。
椅子に腰掛け本を読んでいたエマ・ストーンの冷徹な視線が足元に落ちる。ゆっくりとヒールの踵に体重をのせる。むぎゅー、じたばた。うさぎになりたい。