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女王陛下のお気に入りのinotomoのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.5
1700年代初頭のイギリス王室。女王であるアンは、持病と17人もの子供を亡くした経験から、心身共に病み、政治には興味も持てず、アンの側近であるサラが、政治を含めて大きな権力を持っていた。アンの幼馴染みでもあるサラは、アンの寵愛を一身に受け、友情以上の絆で二人は結ばれていた。ある日、サラを尋ねてサラの従姉妹であり、没落貴族の娘のアビゲイルが宮殿にやってくる。初めは女中の下っ端として働いていたアビゲイルは、野心たっぷりにアンに近づいていき、やがてサラの立場を脅かしていくことになる。

今年のアカデミー賞に数多くノミネートされていた作品。冒頭で、美しい弦楽器のハーモニーと、美しい美術と衣装が目に入った時から、一気に作品に引き込まれる。かといって、よくあるイギリス王室のコスチューム劇とは違い、現代的な感覚で作られた、美しくもどこか悪趣味で、ドロドロした人間ドラマ。広角レンズ、自然光で撮影された、そのどこか歪な映像は、そのまま物語の世界観を表現しているかのよう。時折出てくる、ひとつの音符だけを単調に繰り返す不思議な音楽も、見る者の心をざわつかせる。女同士の戦いに、同性愛的描写も絡めつつ、コメディ要素もあり。とにかく見応えある面白い作品だった。

アン女王、サラ、アビゲイルを演じた女優3人の演技合戦が作品の大きな見所で、(ちなみに出てくる男性キャラは皆ろくでなしばかり)皆オスカーノミネート。アンを演じたオリヴィア・コールマンは主演女優賞を獲得している。サラを演じたレイチェル・ワイズは、きりっとした知性溢れる佇まいが印象的で、男性的な魅力をきちんとサラというキャラに落とし込んでいるところが良かった。キャラクター的に旨みがあるのが、エマ・ストーンが演じたアビゲイル。とにかく野心家で、ずるがしこく、それでいて過去の経験がトラウマでもあり彼女の強さにも繋がっているところを、エマ・ストーンが見事に演じていた。最初に彼女が画面に現れた時から、その表情がそれまでの彼女の出演作とはまったく違っていて、女優としての力を感じさせた。そしてなんと言っても素晴らしかったのが、アンを演じたオリヴィア・コールマン。アン女王は、女王としてのプライドはあるものの、知性に欠け、見た目も平凡、それらのコンプレックスと共に、繰り返す流産や死産で17人もの子供を失った悲しみ、大人になりきれないわがままさを合わせもった、複雑で孤独で哀れな存在。オリヴィア・コールマンの演技はとても素晴らしく、セリフなしの表情ひとつでも、アンの心情を表現してるあたりが素晴らしかった。特に印象的だったのが、舞踏会の場面。着飾って舞踏会に出席するものの、サラが男性とダンスを踊っているのを見てるうちに、次第にアンの瞳の表情が微妙に変わっていく。セリフはないけど、アンのアップが長く続くこの場面の表情は忘れられない。そしてラストシーンのアビゲイルとアンのやり取りとアンの表情。詳しくは語れないけど、変化したアンとアビゲイルの関係性を表現した印象的な場面だった。

監督はヨルゴス・ランティモス。彼の作品は今回が初めて。俄然過去の作品が気になってきた。アカデミー賞作品賞をとってもおかしくなかったと思う作品でした。
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