Daisuke

ザ・スクエア 思いやりの聖域のDaisukeのレビュー・感想・評価

4.4
[四角の中に]

驚いた。
監督のインタビューで「この映画はカンヌでプレミア上映するのを念頭に作ったんだ」と言ってるのを見つけ、本当かどうかはさておきカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを受賞したという事実。
この事実「込み」でこの作品は素晴らしい映画だったと思う。

勘違いしないでほしいのは、
「素晴らしい賞を受賞したから素晴らしい作品だ」と言ってるのではなく、この作品のコンセプト自体、カンヌで賞を獲るというインテリ行為そのものすら「一体何が素晴らしい事なのだろうか?」という思考を掻き立てられたからだ。

不勉強だった自分は、鑑賞前の夜に、前作「フレンチアルプスで起きたこと」を鑑賞し、この監督の意地の悪さ、いや、ある意味でとても公平な目線で物事を見ようとしているところに惹かれた。

今作では、まずチーフ・キュレーターである主人公が新作「ザ・スクエア」というアート作品を展示しようと動いてる。
ところが「フレンチアルプスで~」のように思わぬ事が起こり、彼の本質が露わになっていく。
美を扱うキュレーターという仕事をしている人間だからこそ、日常に起こりうる小さな事から厭らしい人間の本質が浮き上がってく様に、滑稽さや生々しさが浮かび上がる。

それを傍観している私たち観客は、「はっはっは、馬鹿だなあ」と笑っているが、それは最初のうち。
この映画で最大の見所と言っていい「猿のパフォーマンス」を行うシーンで笑っていられるだろうか?あのとてつもない緊張感と共に「自分なら動けただろうか?」と考えてしまう。まさにこれは前作の雪崩である。

現代アートが実際の生活にリンクしているかどうか?というアート界の疑問点から、Youtubeを使ったアートと広告の関係性に繋がれる。
始めは全く遠い世界であるアートの世界での話だったと思っていたが、気がつけば私たち「傍観者」に突き刺さってくる仕掛けだった。

前作では「家族を救えなかった夫」だったが、今作では「誰も救おうとしない男」が、人間の本質に向き合うかどうかの物語だ。人間はいつでも美と醜の間にいる事を彼も私達も知る事になる。

映画を見て「素晴らしい映画だ」と語りながら、結局、何が素晴らしい事なのだろうか?と考えている自分がいた。

スクエアなスクリーンに映る虚構と、広大に広がる現実。

これだけは思う。
線を引き、四角の中だけに、
心を留めないようにしたい、と。
Daisuke

Daisuke