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ザ・スクエア 思いやりの聖域のminorufukuのネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

現代美術館のチーフ学芸員を務める主人公は、新たに展示予定となる企画作品のPR戦略策定に余念がなかった。そんなある日、駅前で変質者らしき男に追われて悲鳴をあげている女性を主人公が助けたところ、実はそれはスリの一味の狂言で、主人公はサイフとスマホを盗まれてしまう。GPS機能でスマホの位置を探索したところ、その在りかは貧困層が暮らすアパートだと判明する。部下のアイデアで、主人公はアパート全戸にスマホと財布を返すよう呼びかける脅迫状を投函するのだが…という話。スウェーデン映画。

2017年のカンヌ映画祭パルムドール受賞作品。「わたしは、ダニエル ブレイク」と「万引き家族」の間の年の作品となる。前後の受賞作とは違い、人間誰もが持つ不誠実で非道徳的な部分をコメディタッチでシニカルに描いている。評判が良いのでレンタル。
メチャメチャ面白かった!

美術館の展示を巡る話としか予備知識が無い状態で鑑賞。2時間半の長編だし、退屈するかなあと思って観ていたら、先が全然読めないしストーリー構成もダイナミックかつ大胆で楽しめた。
社会道義上不快なテーマを扱っているのに、意外性が抜群な展開が続くのでくすくすと笑いが漏れてしまう。冒頭のスリのエピソードの始まりなんて、いきなり過ぎて何が始まったのか分からなくてポカーンとしてしまった。

美術館のプロジェクトと、スられた貴重品を取り返す話の二軸を中心とした映画なのだが、企画展示が邦題サブタイトルにもなっている「思いやりの聖域」という人間の平等と博愛主義的なテーマを設定しているのに対し、スリのエピソードでの主人公たちが展示のテーマと真逆な貧困層への差別主義的な態度を取っていて、このギャップが見事だった。また、PR会社が作製した企画展示のプロモーション動画の無茶苦茶さにはビックリしたし、そのプロモーション内容を主人公がスリの事件にかまけてほぼ未チェックで公開したことで責任を負うことになる顛末も興味深かった。事件が収束し、主人公が自らの過ちをかえりみて償いを試みるも、それがうやむやに終わってしまうラストも余韻が残った。

何と言っても一番インパクトがあったのは、美術館関係者を集めたパーティでの余興で登場する猿人間のシーン。余興なので誰も文句は言いづらい雰囲気の中で猿を演じる半裸の男の奇行が気まずさが大爆発でシュールだった。この猿人間演じた俳優さんは、猿の惑星の新3部作で猿のモーションキャプチャ担当だったそうな。

監督の作風なのか、画面の至る所に伏線っぽい思わせぶりな情報が含まれている。画面外からもやたらと「ガシャーン」という騒音が聞こえてきていて、何か話に絡んでくるのかなあと気にしていたら、ほぼ本題には無関係な要素だったので良い意味で裏切られた。美術館の会議にスタッフが赤ん坊を連れてきていて、その赤ちゃんが当たり前だけどひたすらわんわん泣いていた(^^)

作中のスウェーデンで頻繁に物乞いをする人々が登場していて、色々と考えされられた。主人公が物乞いをしていた男を冷たく突き放したあとに、主人公自身が困難に陥ってしまい、その物乞いの男に助けを求める身勝手さには心底呆れてしまった。
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