トランスジェンダーの人権をテーマにしたチリの映画。2018年アカデミー賞 外国語映画賞を受賞している。
彼女が同棲していた初老の恋人が突然亡くなった事で、殺人の疑いをかけられるだけでなく、元奥さんや息子からも謂れの無い侮辱を受け窮地に追い込まれていく。
父親を、元夫を、一家の主をトランスジェンダーに奪われた格好になり、「気持ち悪い」「変態」と罵声を浴びせるようになる家族の様子など、脚本の上手さが光るが、それ以上にインパクトがあるのは、実際にトランスジェンダーである主演女優ダニエラ・ヴェガの存在感だ。性転換手術も済ませた彼女は美しいだけではなく、中性的な逞しさや芯の強さも感じさせ、人権迫害を受ける中で気丈に振舞う姿が強く心に残る。作品のテーマを含め、日本映画「彼らが本気で編むときは」での生田斗真を思い出した。
ただ、主人公の恋人が前妻と離婚済みなのかどうか作品内で明確になっておらず(だったはず)、2人の関係が不倫に当たるのかどうか判断が難しい。そのせいか作品の評価も賛否両論になっているようだ。僕は、2人が一緒に住んでいる事から、恋人は前妻と離婚しているのだと思い込んで観ていたが、鑑賞後に調べてみたところ、この辺りの背景にはチリの結婚制度が大きく関係しているようで、日本人の「離婚届によって白黒がはっきりする」価値観だけで状況を把握するのは難しいのかもしれない。そんな国ごとの違いを知るきっかけになった点でも、得るものが多い作品だった。
音楽も非常に良い!