harukapi

検事、弁護人、父親、そして息子のharukapiのレビュー・感想・評価

4.0
EUフィルムデーズにて鑑賞。
印象的だったのは、旧ユーゴ紛争に巻き込まれた人々の紛争がもたらした影響への葛藤と、その戦後処理に関わる「西側」の人々の自己を取りまく葛藤が克明に描かれていたこと。そしてそれらを横断する形で各々の親子の物語が描かれていたこと(ここに観衆が歩み寄れる余白があった気が)。

「法律が人間の管理をしなければ、この世の中は上手くいっていない」みたいなことを弁護士は口にしていたけど、それを聞くボスニア人?青年は複雑な顔をする。法律が機能するのはその法律を等しく厳格に取り扱う人同士の間だけであって、戦争下で法律で禁じられているからと理性が働く人間なんていないに等しいよね。戦争が一旦終わったからこそ言える法律の綺麗事。

「西側の人たちはちょっとちがう」て笑って話すボスニア人の若い女性や「自分たちの国で醜い殺し合いがあったときにも、ここは変わらず美しかったんだろうか」とアムステルダムの街並みを眺めるボスニア人のお父さんの言葉。日本から見たらボスニアも西側だけれど、彼らから見た西側諸国はどんな国なんだろうか。

ハーグ戦犯法廷の人々は正義をかざしつつも、やはり他人事のようなところがある。通訳の最中に言葉に詰まる女性を見て、彼女はボスニア系か?知らないわ、と言葉を交わす。検事の女性は自分が女であることにキャリアやプライドにコンプレックスを抱く(監督が女性だからこんな場面もあるの?)。ボスニアの人たちにとって終わりなき苦悩を扱う法廷ではそれぞれの意地が闘い合う。

最後のテロップで出た「この作品は全くのフィクションであり似たような例があっても全くの偶然です」という文言が戦後も続く葛藤を物語るようだった。
映像も美しいし、投げかけられるメッセージのバランスも良くて、とても良作でした。
harukapi

harukapi