鰯

散り椿の鰯のレビュー・感想・評価

散り椿(2018年製作の映画)
4.2
残る椿があると思えばこそ

瓜生新兵衛は、友人の父が犯した不正を訴えるが認められず、妻と藩を出る。妻の願いを叶えるため再び藩へと戻った新兵衛は、不正の真相と妻の本当の想いに近づいていくのだった。

試写会にて鑑賞。時代劇に明るくないため、序盤は困惑しましたが、かなり楽しめました。

セリフが少なく、各々の背景が分厚く語られないのですが、キャスティングが見事なので人物の造形はつかみやすい。説明はないのに、わかる。新兵衛の妻・篠(麻生久美子)には誰もが惚れて、恋敵が出てくるの、わかる。篠の妹・里美(黒木華)に篠を重ねてしまうの、わかる。新兵衛などとともに道場の四天王と評された源之進(駿河太郎)が忠義に厚いの、わかる。などなど
その他、ちょい役にもすばらしい俳優さんが配置されていて、豊かな映画でした。

男女の深い愛情関係がメインですが、個人的には新兵衛ら平山道場の四天王の圧倒的な信頼関係にグッときました。4人がセリフをやり取りするシーンなど1つもないのに、彼ら以外には理解できないほどの関係性が築かれている。

基本的には抑制されて静かなお話。音楽も壮大にはなりすぎず(何故かゴッド・ファーザーに酷似していたけれど)、登場人物が感情を爆発させるシーンもほぼない。人によっては退屈に思うかもしれませんが、私は目が離せませんでした。そんな中でふと笑えるような場面が入るのが楽しい。四天王の1人・采女の母が半分狂ったような芝居。「一杯だけです」と言って飲み始めた新兵衛の義弟・藤吾が二杯目を飲むところ。ラスト近くの「励め!」には、爆笑しました。

静かに静かに物語が進むからこそ、ここぞというときの殺陣は圧倒的。カメラは動かさずじっくり取っているからこそ、躍動する俳優陣の立ち振る舞いが映えているように思いました。そして、流血が何だか美しい。鮮血を浴びた新兵衛はまさに鬼の形相なのだけれど、そこにも美しさがありました。
ストイックな殺陣や画面の色味、岡田准一さんの表情など、いい意味で「古臭い」映画を観た!という感想です。1年に1本か2本こういう映画を観られるとしあわせだなあと思います。

個人的に岡田准一さんが今後トム・クルーズのようになっていくのではないかと勝手に期待しています。アクションができて、映画自体プロデュースしてしまうような気が。
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