MasaichiYaguchi

MR.LONG/ミスター・ロンのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

MR.LONG/ミスター・ロン(2017年製作の映画)
3.8
台湾の人気実力派俳優であるチャン・チェン主演で、SABU監督が脚本も手掛けた本作を観ていると、「袖振り合うも他生の縁」という諺を思い出す。
台湾の殺し屋ロンは依頼された東京での暗殺任務に失敗し、逃げ落ちた北関東の田舎町で孤独な少年ジュンとそのシャブ中の母リリーと出会う。
そして、その田舎町のお節介な人々があれやこれやとロンに構って、救いの手を差し伸べていく。
この作品は日本・香港・台湾・ドイツ合作ということもあって、邦画というよりアジア映画という色合いが強いが、“落人”のようなロンを巡るドラマは、如何にも日本の義理人情の世界だと思う。
本作には主人公ロンをはじめとして、孤独な魂を抱えた人物が何人か登場する。
特にロンが逃げ落ちた先で最初に出会った少年ジュンはロンの孤独な少年時代と、台湾出身のジュンの母リリーもロンの母の境遇や姿とオーバーラップする。
この似た者同士は孤独な魂を寄り添わせるように交流していく。
作品自体は、殺し屋やマフィアが登場するフィルム・ノワールだが、主人公と少年、そしてその母、更に来た者は掴んで離さないので「すっぽん村」の俗称のある地元の個性溢れる人々との交流がユーモアを交えて温かく描かれる。
私は東京下町の生まれ育ちだが、この地元の人々のようなお節介焼きの思い出がある。
今でも下町や地方都市には、このような向こう三軒両隣的な世界が残っていると思う。
クールで感情を表に出さないロンは、母子やこれらの人々との触れ合いの中で人間らしさを取り戻していく。
だが、殺し屋のロンを“その業界”の人々が放っておく訳もなく、終盤ではロンと彼を追うものたちとの怒涛の展開に雪崩れ込んでいく。
その顛末の後に訪れる心揺さぶる意外な展開。
ラストの展開を観ていると、人に生涯一度だけ訪れる機会を意味する「一期一会」の言葉と共に、何とも言えない温もりが心に残ります。