柏エシディシ

MR.LONG/ミスター・ロンの柏エシディシのレビュー・感想・評価

MR.LONG/ミスター・ロン(2017年製作の映画)
3.0
とにかくチャンチェンを愛でる為の映画。
旧知の仲であるSABU監督がチャンチェンの為に当て書きしたという台湾の殺し屋がクール且つ愛おしい。

人を殺める刃物が人を繋げ生かす食事を作る道具でもあるという暗喩。凄惨な道を歩んで来たであろう男が何故に料理が得意なのか。映画自体はそこに饒舌な説明は加えないものの孤独な人生が彼自身を活かす為に必要とさせたものだと仄めかす。そこに想い到り、彼が母子に心寄せていく必然に心締め付けられる。

基本プロットは「シェーン」や「ドライヴ」の系譜に連なる「訳ありの過去を持った流れ者の男が孤独な母子と出会い、束の間の安息を得るが、幸せな時は長くは続かず、、」というお馴染みのもの。
しかし、お馴染みという事はそれだけの魅力を湛えている物語であるという事。
お人好し過ぎる日本人の描写を含めて、これは映画という名のファンタジーであると解ってはいるものの、だからこそこの物語のトーンが反転するエピローグはありがちだけれど「あり難い」物語として心揺さぶられる。図らずも涙溢れた。

チャンチェンはもちろん最高。孤高の殺し屋としての佇まいはもちろんクールなんだけれど、困り顔で周囲に巻き込まれていく姿も愛おしい。野球と卓球のシーンの微笑ましさ。
イレヴン・ヤオも。哀しく美しい。素晴らしい。
松本淳一さんのスコアもとても印象的でした。

惜しむらくは、主人公が心を開いてく過程が同郷の母子との絡みが主体で、お節介な日本人との交流がやや一面的であるという事。個々人とのエピソードをもう少し丁寧に描いてくれていれば、より今日的な厚みのある物語になった様に思う。
まぁ、そんな不満は、終始仏頂面のチャンチェンが最後の最後で見せてくれる表情一発で
吹っ飛びましたが。
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