鰯

ラッカは静かに虐殺されているの鰯のレビュー・感想・評価

5.0
細かな減点をする気になれない

2014年アサド政権への反政府デモが進む中、イスラム国(IS)がシリア北部の街ラッカを占拠する。広場が処刑場と化しわずかな自由さえも奪われていく。メディアでは取り上げられない現状を発信すべく、市民メディア「ラッカは静香に虐殺されている(RBSS: Raqqa is Being Slaughtered Silently)」が組成される。プロパガンダに対抗し衝撃的な映像を発信するRBSSに危機感を覚えたISは、メンバーやその家族の暗殺を始める

ちょっとこれを観て半端な点数をつける気になれませんでした。政治的な立場を超えて今観てほしい一本です(子どもは観られません)

スマホ(カメラとネット)が戦争の最前線で闘う武器になる。現地で検問をすり抜け(時には検問そのものを撮影し)、処刑の現場を撮る匿名市民、ドイツやトルコで日々脅迫を受けながら配信作業を行う人々、それを撮影するスタッフ。正直誰がいつ殺されるのか分からないという恐怖が常にある。実際に命を落とした人の最期も克明に記録されている。活動の進展や状況の好転に応じてほんの一瞬弛緩した表情を見せるけれど、すぐにまた深刻な表情を見せる。これが観ててより一層つらい
ドキュメンタリーとしてはかなり作為的だと感じる面があり、異質な印象を受けました。おそらくRBSSにとってはこのドキュメンタリーを含めて広報の一環だと思う(製作は組織とは別の監督ですが)。例えば編集の仕方。メンバーに子どもができるという話のあとに、ISの少年兵の映像を入れる。帰る家はあるのか、と話すメンバーのあとに、空襲で自宅が被害にあった様子をスマホで見つめるシーン。ネオナチの映し方は、おそらくISとの近しい構図を狙っている。
劇映画といっても不思議でない場面もさらっと入れてくる。ドイツでの生活に心躍らせる瞬間のカメラワークや明るい音楽の使い方、最終盤の独白からエンドロールでの「命名」まで。

「我々が勝つか、皆殺しにされるかだ」
鰯