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パティ・ケイク$の一人旅のレビュー・感想・評価

パティ・ケイク$(2017年製作の映画)
5.0
ジェレミー・ジャスパー監督作。

大好きなラップで成功を収めるべく奮闘する女性の姿を見つめた青春ドラマ。

ミュージックビデオ界出身のジェレミー・ジャスパーの長編初監督作品で(兼脚本&オリジナル音楽)、一流のラップミュージシャンになる夢を追う白人貧困層のヒロインの苦悩と努力の日々を見つめた“音楽+青春ドラマ”の秀作になっています。

ニュージャージーの田舎町を舞台に、アル中の母親と車椅子生活の祖母と暮らす23歳の太っちょ白人女性:パトリシア(パティ・ケイク$)を主人公にして、祖母の医療費すら払えない経済的困窮から抜け出し、一流のラップミュージシャンとして成功を収めるべく地元の仲間とバンドを結成、オリジナルのラップ曲で有名コンテストに挑戦してゆく主人公の奮闘を描いたサクセスストーリーで、主演を務めた新鋭:ダニエル・マクドナルドが魅せる魂の熱演に心揺さぶられます。

白人貧困層いわゆるプア・ホワイトの主人公が音楽の夢を追う姿は青春映画のスタンダードなパターンですが、本作の場合には主人公の家庭状況がまさしく“どん底”なものとして生々しく描かれていて、そこからもがいて這い上がろうとする主人公の起死回生の大勝負の行方に片時も目が離せない作劇になっています。ミュージシャンになれなかった悔しさを抱えながら場末のバーで美声を披露するアル中の母親や、体調が悪く車椅子生活を送る高齢の祖母との荒んだ生活ぶりが“貧困”というキーワードによって容赦なく映し出されていて、保険未加入だから高額な医療費を払えない―アメリカ社会の制度的問題をも劇中提示しています。

カントリーでもロックでもない、音楽映画としてはまだまだ取り上げられる機会の少ない「ラップ」を題材にしたパワフルな音楽シーンは見応え万点で、お互いにラップをぶつけ合ってライバルを打ち負かす―“対戦形式”を採ったラップ独特の音楽スタイルが興味津々ですし、クライマックスのコンテストシーンでは自身の境遇を歌詞に反映させた魂の熱唱と母娘の絆に涙腺が緩みます。

主演のダニエル・マクドナルドの熱演がお見事ですが、母親:ブリジット・エヴァレット、祖母:キャシー・モリアーティ、寡黙な黒人青年:ママドゥ・アティエら脇を固めた役者陣も味わい深い名演を披露しています。
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