銀色のファクシミリ

赤い雪 Red Snowの銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

赤い雪 Red Snow(2019年製作の映画)
3.4
『 #赤い雪 RedSnow』(2019/日)
劇場にて。曇天の空と暗い海、根雪の醸し出すタナトスの匂い。払えぬ悔恨と閉塞感を抱えながら、彷徨う主人公。北日本にはこういうノワールが良く似合う。30年前の少年失踪事件に関わる人々の人生が交錯する物語。とても自分好み。

失踪事件の真相が作品の肝なので、細かいディテールには触れられません。印象的なのは色の使い方。記憶の曖昧さを表す雪の淡い白、失踪した少年を象徴する鮮明な朱と濁った濃い赤。そして取り返せない時間と、悲惨な運命を示す漆黒。終盤のある場所の漆黒は、下手なホラー映画以上の恐怖を覚えました。

失踪した少年の兄で、30年前のあの日に弟を見失った悔恨から、人生を固くしてしまった主人公の白川(永瀬正敏)。木椀の黒を隠すように漆を塗り重ねて朱の漆器を作っているのが、彼のこれまで人生を表すかのよう。ルポライターの木立(井浦新)と共に、ある人物に事件の真相を質しに赴く。

ある人物とは事件の有力容疑者の娘。幼いながらも真相を目撃していたと思われている。過酷な幼少期を過ごし、幸せとは縁遠く生きている小百合を、菜葉菜さんが好演。並みいる有名俳優に比肩する存在感がありました。その生い立ちに同情を感じながらも、嫌悪も覚える、卑近で野卑な素行と立ち振る舞い。

そんな小百合を形造った、容疑者で彼女の母(夏川結衣)と内縁の夫(佐藤浩市)は、怪演と評してもいいくらいの薄気味悪さ。
時効も成立し、誰もが忘れさった事件に囚われつづける人々の人物像と過去を少しづつ描きながら物語は進み、事件の真相は30年後の人々にも大きく影響を与える。

誰がこの事件の罪を負うべきなのか。法律と司法とは別の、人が抱える贖罪の意識。そんな上等なものはどこかに捨ててきた人の生き方と末路を映す終盤。やるせなさと諦観の味わい。キライじゃないです。感想オシマイ。

追記。『凪待ち』に続いて鑑賞したので、なにげに吉澤健さんの出演作の連続鑑賞にもなっていて。『凪待ち』の老漁師も心に残りましたが、『#赤い雪』も素晴らしかったです。少しボケが入ったような振る舞いから、事件を語りながら老刑事の顔つきになり、言葉も鮮明になっていくのです。
(2019年7月12日感想)

#2019年下半期映画ベスト・ベスト助演俳優
#2019年映画部門別賞
・吉澤健/『赤い雪 Red Snow』
引退した老刑事・上原役。短期記憶のおぼつかなさが耄碌を感じさせるのに、昔の事件の話をしながら顔つきに生気が戻り言葉も明朗になっていく。老人が刑事に、社会に戻ってくるのが分かるスゴイ演技力。
(2019年12月31日感想)