るるびっち

テリー・ギリアムのドン・キホーテのるるびっちのレビュー・感想・評価

3.0
30年間この企画に携わっていたギリアムこそが、真のドン・キホーテと言える。
或いは映画とは、巨人とも風車とも正体の掴めぬ謎かも知れない。
と、いかにもな事を書いて綺麗に纏めても良いが、今回は他の事を述べたい。

「本当に創りたいものは創らない方が良い」のではないか。映画を見てそう思った。本当に好きな人とは結婚しない方が良い、というのに似ている。

例えば『長くつ下のピッピ』を創りたかった高畑勲と宮崎駿は、原作許可が出ず『パンダコパンダ』を創った。それが『となりのトトロ』の元になった、と思う。
同様『ゲド戦記』も長らく許可が出なかったので、そのエッセンスを『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』に詰め込んだ。
許可が下りた時、既に宮崎は興味を失くしていた。親父の尻ぬぐいは息子が行った。ぬぐえたかどうかは、ここでは問わない…
もし『ゲド戦記』に早々と許可が下りていれば、『ナウシカ』『ラピュタ』は無かったかも知れない。
ルーカスだって『フラッシュ・ゴードン』の映画化権が他に押さえられていたので、オリジナルの『スター・ウォーズ』を創作したのだ。
そう考えると、むしろ本当に創りたいものは創れない方が作家のオリジナリティの発展には良いのではないだろうか?

実際、ギリアムは『ドン・キホーテ』的な要素を他作品に何度も入れている。
『未来世紀ブラジル』では、管理社会で翼を生やし英雄のように飛翔して、理想の女性を追い求める主人公の妄想を描いている。正にドン・キホーテのモチーフだ。
『フィッシャー・キング』ではドン・キホーテのような狂人が出て来る。
今回の設定同様、主人公の過去の行いが災いして狂人を生んだ話で、切なさで言えば『フィッシャー・キング』の方が数倍勝る。
彼が30年かけて創ろうとしたモチーフやアイデアは、既に別作品で昇華済みなのだ。そしてドン・キホーテそのものをやるよりも、モチーフやアイデアを別の設定に反映させた方が傑作になっている。

創りたいものを創るより、別の企画や設定の中にやりたいことをねじ込む方が、考えぬかれ工夫され磨かれてより鋭くなり、オリジナリティも上がるのである。
だから、好きな人とは決して結婚してはいけないのだ!!
違った💦 好きな企画を作り上げてはいけないのである。
まして30年も追い続けるなんて愚の骨頂だ。
見果てぬ夢は、実現するとタダの悪夢に過ぎない。
やはり、ギリアムこそはドン・キホーテそのものだったのだ・・・
結局、いかにもな事を書いてしまった💦
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