蛇らい

ザ・スーサイド・スクワッド "極"悪党、集結の蛇らいのレビュー・感想・評価

3.9
劇中のセリフ、音楽、演出、それぞれのタイミングと取捨選択をひとつとして間違えないパーフェクトさに感服した。センスとユーモア、オリジナリティと映画史へのリスペクトが端々から溢れ出る。

悪質な右派から過去のツイートが掘り起こされ、最終的にディズニーからもキャンセルされたジェームズ・ガン。しかし、彼と仕事をした関係者からの慕われ様や、彼のフィルモグラフィーからカウンターカルチャーのど真ん中にいることは一目瞭然。間違った権威に立ち向かうときにこういったくだらない策士に足を取られるのだ。個々の本質を捉える力が試され、より連帯を求められる。

雨の中でも、横並びで歩幅を合わせて進んでいかなければならない。劇中でブラッドスポッドが「君を守る」と言ったのに対し、ラットキャッチャー2が「私があなたを守る」と言うやりとりが泣けてしまう。ガンが映画で我々に語りかけたようでもあり、ガンを救ったファンとフォロワーとの関係性のようでもある。

序盤、Twitterのアイコンである鳥を殺すシーンから始まり、ボタン1つで彼らを殺すことのできる政府の司令塔が登場する。それができるのが人選をした権力者であると言う点も重要。善と悪をジャッジして、それを大義名分として都合の悪い事情を強制的に排除する。暴力的な排他性の先に何があるのか、何をしなければいけないのか、楽しさと希望の物語の中に落とし込み、優しさを孕んだ反骨精神がとても素晴らしい。

無下にされる命は悪だけではなく、権力者と階級社会の上位にいる者に必要とされないものにまで至る。さらに彼らに意図的な分断を余儀なくされる。立ち向かう術は一緒に生きている人と連帯することに尽きる。ジェームズ・ガンは、間違ったムーブメントに巻き込まれた張本人として、自ら断罪する責務を全うしたと感じた。

演出面ではウィーゼルを始めとする、どんな人選なんだよと言いたくなるユーモア、キャラクター個々の魅力をしっかり理解した上で、登場と活躍の時間のバランスも完璧。

人気キャラクターのハーレイの戦闘シーンでは、映画的に花びらが彼女の周りを舞い、『メリー・ポピンズ』(1964)的なアニメと実写の融合もされている。過去シリーズとはテイストの違った衣装もオリジナリティがあるハーレイとして登場させている。ハーレイはいつもランニングフォームがかっこいいと思うのは自分だけだろうか。1番の推しキャラはラットキャッチャー2。そもそも少し不健康的なキャラに何故かグッときてしまう。(『ローガン』のキャリバン等)

戦争、SF、特撮、ゾンビと様々なジャンルを経由し、アメリカやディズニーなどへの批判をアンチヒーローから発信したと言う点のクールさが光った本作。正論がいかに正しさと意味を持たず、分断を招くかといった鋭い指摘をメインストリームの中でやってのけるガンは、最もかっこいい映画監督の1人ではないか。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」2部作で周囲との連帯をテーマにしていた彼の信念が、実質的に彼を救った事実は、とても美しく、これ以上の説得力持つ者はいない。
蛇らい

蛇らい