クラゲ男爵

ザ・スーサイド・スクワッド "極"悪党、集結のクラゲ男爵のレビュー・感想・評価

5.0
story|あらすじ

政府によって集められた"悪党(ヴィラン)のみで構成される使い捨ての愚連隊。今回の任務は南米の独裁国家で極秘裏に行われているという"スターフィッシュ計画"を抹殺するお話。頭の悪い最低なヴィランたちが魅せる世界の救い方が最高でした。個人的には出オチ感が過ぎるイタチもどきヴィランと、頭が悪すぎる人食いサメのナナウエが最高~!

issue|視点

・ジェームズ・ガンの”才能勝ち”・前作からの奇跡の大逆転 ・必要だったのは『笑い』だった

まず前作の『スーサイド・スクワッド』(もっと言えばDCシリーズ全体)が期待を裏切った凡作だった事が重要で、それをジェームズ・ガン監督が"才能のみ"でひっくり返したことがスゴイところでした。本作は興行収入が特別良いわけではなかったのですが(シリーズの中で興行収入が製作費を上回らなかったのは『ワンダーウーマン1984』と『『ザ・スーサイド・スクワッド "極"悪党、集結』の2作品のみ)、それでも評価されDCシリーズ(=DCEUシリーズ/DCエクステンデッド・ユニバース)全体を統括するCEOに抜擢されたのも納得できる内容でした。

ジェームズ・ガン監督の一番の功績は『屋台骨を作り直した』という事に尽きると思います。それまで積み上げてきた『重く、暗く、リアリズムを追求したメインストーリー』と、『アッパーなノリのスピンオフ作品』というジレンマを解消し、全体を統一しうる重さと軽さを両立した作品を作り上げた部分が評価されたのかな、と。

前作『スーサイド・スクワッド』も『マン・オブ・スティール』から始まるジャスティス・リーグのメインストーリーも、キャラクター設定や存在のリアルさを求めるがゆえに爽快感や、逆にリアリティを失っていたと思うんですよね。

そんなシリーズの中で、監督はリアルさと荒唐無稽さの丁度良いバランスを見事に提示してくれたのです。話の筋や世界設定は荒唐無稽だけど、そこで描かれる人間の感情はとてもリアルだったりして。『そうそう、求めていたのはこういう事なんだよ!』と膝を打ちました。まるでデル・トロ版の『ヘル・ボーイ』を観た感じに近いんですよね。『DCシリーズに必要な魅力はキャラクターの内面を描く深刻さではなくて、世界をシニカルな笑いで切り取るブラックジョークだったんだ』と視点は、(DCシリーズでは)新しいと思ったし、これこそ必要な要素だと思ったんですよね。

review|レビュー

今回の物語は前回主演だったデッドショット(ウィル・スミス)ではなく、ロバード・デュボア演じる新キャラが主役を張ります。これって割と無いパターンだと思うんですよね。

ジェームズ・ガン監督は『(バットマンやジョーカーなどの)有名キャラを極力出さないこと』と『ヴィランであること』にとことんこだわる事で前作の影響を極力薄くしたのかなと思いました。『ヴィランであること』とは、前作でも陥った『悪党として出ているのに、実は普通に良いヤツだった』みたいな作り手都合の話にしないため、『頭が悪すぎた結果、悪党になった』という落しどころが本当に見事な解決策だと思いました。そうすることで酷い殺し方(殺され方)をしても『ああ、頭が悪いからな~』と変に納得してしまいますからw。また指令チームもちゃんと悪党として描かれていることも納得。普通に良いヤツならあんなこと出来ませんしね。

序盤から壮大などんでん返しを仕掛ける構成力、マーブルでは抑えられていた(でも初期作の『スーパー!』などでは確実に存在してた)ポップでアナーキーなゴア描写。緻密さと大胆さを兼ね備えた脚本でブラックジョークにまとめるくせに、たまにめっちゃエモいシーン入れて来るのズルさとか、事ある毎にジェームズ・ガン監督の見事な演出にしてやられて、終始うなりっぱなしでした。『ああ、これが才能なんだな…』、観ていて本当にそう思ったんですよね。

idle talk|雑談

前作の監督(デヴィッド・エアー)も才能ある人だけど『ヴィランなのに主人公』という演出設定で明らかに失敗していて、そのダメさ具合が『DCシリーズがイマイチな理由』にも繋がっていると思っています。それは『本当は"重要じゃない”部分にこだわり過ぎた』というところです。前作『スーサイド・スクワッド』では『世界を救う』という部分に注力し過ぎて悪党の魅力が生かせなかったし、『ジャスティス・リーグ』ではヒーローの『力を持つが故の苦悩』を描き過ぎて、観客の心をつかむ事に失敗してたように思いました。それでもハーレイ・クインやワンダーウーマンの人気などによってぎりぎり繋がっていた訳ですが、シリーズとしての低迷感は最初の頃からずっとあった訳です。

今回、ジェームズ・ガン監督は過去の差別発言スキャンダルでマーベルを追われこの映画を撮る事になったわけですが、その結果、シリーズを統括するCEOに抜擢された意味合いは大きいと思うし、それによってシリーズの方向性も大きく変わる事がアナウンスされている現状なので、内容はもちろん、その後の影響も含めて稀有な作品だな~と思いました。

あと全然関係ないんですが、ウィキペディアを見ていたらジェームズ・ガン監督一作だけゲームの脚本をやっていて、それが女子高生がゾンビの頭をチェーンソーで首ちょんぱする『ロリポップチェーンソー』だと知ってびっくりしました。(全然知らずにプレイしていて好きなゲームでしたw)

どんだけ仕事してんねーんw!
クラゲ男爵

クラゲ男爵