リコリス

世界で一番ゴッホを描いた男のリコリスのレビュー・感想・評価

4.6
まだ中国で紙の紙幣が使われ、フランスではノートルダム大聖堂が迎えてくれた頃のお伽噺のような話。

中国の普通の人々が描かれる映画では、食べるシーンが印象的。美味しいものを皆で囲んで食べるシーンは、どれも良かった。

深圳に近いダーフェンでゴッホの複製画を描く画工。田舎からの出稼ぎで、貧困のため小学校卒。戸籍のある田舎の学校に通うは娘は方言が分からず、家族経営に近い自転車操業の工房はグローバル化の下で生活だけで精一杯。息子は(一人っ子政策をどうやって)ダーフェンで教育を受けるなら、戸籍の関係で教育費も大変だろう。それでも苦心して、画工が憧れのゴッホをオランダ、フランスと追体験しに行く。そして、何かゴッホの核のようなものを掴む。

画工の田舎で暮らす80代の祖母の顔が美しい。美術館で本物のゴッホを見る表情、自分が描きたい絵を描く画家の表情も美しい。画工仲間でゴッホの映画を食い入るように観ている、その眼差しのひたむきさ。

あんなに澄みきった純粋な心で絵を見ていなかった私は、素直に羨ましかった。

いつかはダーフェンに行きたい。アルルの夜のカフェ、ゴッホの眠る墓地、アムステルダムの雨、最後のダーフェンの夜景がしみじみ沁みる映画。
リコリス

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