samiam

世界で一番ゴッホを描いた男のsamiamのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

予備知識一切ないまま、ドキュメンタリー映画とも、中国人が主人公とも知らず観賞。
贋作ではなく、ゴッホの複製品を大量に製作することを生業としている画家(本人は職人とも言っているが)のドキュメンタリー。

内容は知らないことばかりで驚いた。
中国広東省の工業団地がある深圳(私の会社の顧客工場もあり)の郊外の大芬という村に多くの画家が集まり、そこに作られた工房でおびただしい数の絵画が製作、販売されているとのこと。年商は6500万ドル(あるサイトには年商700億円とあったので、これは月商かも)その多くが油絵の名画の複製品。

とてもいいドキュメンタリーだった。感動!
主人公が素晴らしい人物。大量の複製品を製作しているにもかかわらず、まったく手を抜いていない。ただ単純に模倣しているだけではなく、ゴッホを敬愛し、原典の写真、映像を見ながら独学でそのタッチ、色彩を熱心に研究して少しでも原典に近づけようと努力していたことが伺える。本当に上手。

複製画の売人からの、エアーチケットだけを準備すればあとは面倒をみるから尋ねて来なさいという誘いを信じて、一度でもゴッホの故郷を訪ね原画を観たいという思いからオランダに渡航。自分の複製品が画廊ではなく土産物屋で売られていたこと、8倍ほどの販価で売られていた(客観的にみれば当たり前だが)ことにショックを受けたが、気を取り直してゴッホ美術館を訪ね、原画の数々を食い入るように観賞。その後フランスにも渡り、アルルのカフェで絵画と同じ夜の空の色に感動し写生、療養所やゴッホ、弟のテオが眠る墓地を訪ね香の代わりに煙草の煙を焚いたり。無邪気。

この主人公がゴッホ美術館の館員に、20年も複製画を製作していることを褒められたが、自分のオリジナルの絵について尋ねられたときにそれが無いことに愕然として、一念発起オリジナルの絵を描き始める。
自分の愛する祖母をモデルにした絵、工房を始めた頃の懐かしい工房内を描いた絵(奧さんと懐かしむシーンが可愛らしい)が紹介されたが、素晴らしい。やっぱりこの人は職人というよりは画家だよね。

バックに流れる静かな音階もオランダ、フランスの風景、夜景、夜の工房を外から映した絵などとても綺麗。
とても素敵なドキュメンタリー映画だった。
観ることができて本当に良かったと思えた。
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