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世界で一番ゴッホを描いた男のneroのレビュー・感想・評価

3.5
贋作・偽作ではなく、複製画の職人とその市場に焦点を当てた面白いドキュメンタリー。街ごと複製画市場となっている中国ダーフェンで工房を率い、ゴッホの作品を専門に制作する画工シャオヨンの日々を追う。
制作にNHKが関わっているが、TVで放送されたことがあるのだろうか?

産業として確立され、月に何百枚ものゴッホが制作される光景はちょっと衝撃だった。誰も美術専門教育を受けているわけでもないのに、トレースや投影といった工程もなしに、キャンバスにサクサクと複製画を描き起こしていくその手際に唖然とする。迷いのない筆さばきはまさに職人技だ。品質に対する職人の矜持とともに、彼の家族やその生活もしっかりと捉えていて、短いが見応えあった。

取引先の画商の誘いでシャオヨンは仲間と憧れのアムステルダムへ赴く。自分の描いた絵が美術館そばの土産物店で安売りされている実態を目にして落胆する姿は切ない。”作品”としてのプライドがあったのだろう。さらにゴッホ美術館で本物に触れてもたらされた、その絶望感は想像に難くない。

その後は、アルルからオーヴェールへの聖地巡礼の旅程を追う。生活のために20年以上もゴッホの絵を描き続けた果てに、シャオヨンはゴッホ縁の地で何を受け取ったのか。
映画は、ダーフェンの屋台で土産話とともに「自分自身の作品を描きたい」と話すシャオヨンと仲間たちの姿で終わる。これもまた芸術に憑かれた人間の真実だろう。

ともあれ、中国のもつエネルギー、その逞しさにはもうため息しか出ない。
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