茶一郎

バンブルビーの茶一郎のレビュー・感想・評価

バンブルビー(2018年製作の映画)
3.8
 「トランスフォーマー」の映画なのに上映時間が2時間半を超えていないという事に驚くという、異常さ。
 今まで爆破王マイケル・ベイが散々荒らした畑にも、まだ栄養が残っていた!?かつてのトランスフォーマーシリーズが「競技」としての「映画鑑賞」を体感させる映画、演出も、映像も、上映時間もマシマシなラーメン二郎映画だとしたら本作『バンブルビー』は、はなまるうどん映画なのではないかと思うほどに非常に地に足が着いたマトモな映画でした。

 動画でのレビューはこちらです https://www.youtube.com/watch?v=4_Cc6Un_8B4

 何が「はなまるうどん」かと言うと、この『バンブルビー』がとても消化の良い「思春期の主人公が未知との遭遇を経て成長する物語」を描いているからです。もちろんこれは製作総指揮に名前を連ねているスティーブン・スピルバーグ『E.T.』の翻案であり、ティーンネイジャーが道の鉄人に出会い、その心やさしき鉄人を政府から守る物語とすれば『アイアン・ジャイアント』の翻案です。
 かつて2007年、1作目の『トランスフォーマー』もボンクラ青年がバンブルビーと出会い、困難を経て学校で一番の美女を手に入れるというバカ版『E.T.』みたいな事をやっていましたが、本作はそれをもう少しばかり偏差値を上げて上映時間114分に引き伸ばしたといった具合です。

 数々の観客を殺して来たトランスフォーマーシリーズを、とても優しい映画にしたのはトラヴィス・ナイト監督。父がナイキの創業者というトンデモナイ家系っぷりに加え、世界有数のストップモーション・アニメーションのスタジオ「LAIKA」のCEOでもあります。
 かつてトラヴィス・ナイト監督はストップモーション・アニメーションとVFXを組み合わせた『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』でアカデミー視覚効果賞にノミネートされました。そんなVFXが使える監督なら、全編CGをふんだんに使った「トランスフォーマー」シリーズもこなせるだろうとの抜擢でしょう。

 そんなアニメーター出身監督らしさが出ていると思ったのは、バンブルビーの表情の豊かさです。表情と言ってもロボットであるため、表情は一つに等しいですが、本作『バンブルビー』では仕草と動作を総合させ、とても豊かなバンブルビーの表情を堪能する事ができます。
 最近でも『アイアン・ジャイアント』、『ウォーリー』と、アニメーションでは伝統的に無機物に生命を宿させてきましたが、これは命無きものに命を吹き込むアニメーションの演出に他なりません。

 「トランスフォーマーシリーズなのに『ヒト』が描けている!?」ってどれだけ、今までドラマ性を薄めていたのか理解が吹き飛びそうですが、本作『バンブルビー』はしっかりと、主人公が父を亡くしたというトラウマを克服して成長するまでを描きます。この「トラウマ克服」が「飛び込み」というアクションに転換されているのがニクい演出。(この「飛び込み」はやはり『アイアン・ジャイアント』オマージュですかね……)
 トラヴィス・ナイト監督の前作『クボ〜』も父を亡くした主人公、ヘイリー・スタインフェルド主演の前作『スウィート17モンスター』でもヘイリー・スタインフェルドは父を亡くし母・兄弟と仲が良くない子供を演じた、というのはただの偶然でしょうか。

 あんなに狂った映画から、こんなに(悪く言えば)普通の映画ができるなんて……マイケル・ベイ?見てる?
茶一郎

茶一郎