カタパルトスープレックス

東京の合唱(コーラス)のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

東京の合唱(コーラス)(1931年製作の映画)
3.3
小津安二郎監督の戦前のドラマ作品です。アメリカンな「小津好み」がこの頃になるとすっかり影をひそめ、戦後の和風な「小津好み」になりつつあります。そして、構図も徐々にですが小津っぽさが出てきます。

テーマは当時の世情を反映して就職難での「仕事の事情と家庭の事情の葛藤」といった感じ。同様のテーマに『大学は出たけれど』(1929年)や『落第はしたけれど』(1930年)がありますが、就職難にさらに家庭の事情も絡めることで奥行きを増しています。

社長と喧嘩してクビになるサラリーマンを演じるのが、この頃の小津作品の常連となっていた岡田時彦。その妻を演じるのが八雲恵美子。『その夜の妻』(1930年)と同じ組み合わせで、しかも子供が熱を出して看病するのまで同じ。八雲恵美子は凛とした美人ですよね。小津っぽくないけど。そして、その病気で熱を出す娘を演じるのが子役時代の高峰秀子。デコちゃんです。めっちゃ可愛い。戦前と戦後の小津作品のヒロインの共演。

岡田時彦は前作『淑女と髯』(1931年)のような明るい快男児が似合うので、笑顔が光る。その光る笑顔が失業者っぽくないんですよね。 『大学は出たけれど』の高田稔の方がよっぽど似合ったんじゃないかと思わなくもない。

悪くはない作品なのですが、戦後の小津作品のクオリティを考えると、習作な感じがしてしまう。あとU-NEXTは音声版で声が竹下景子と佐野史郎なんですが、やっぱり違和感。無声映画の声はやっぱり弁士じゃないとね。