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東京の合唱(コーラス)のzhenli13のレビュー・感想・評価

東京の合唱(コーラス)(1931年製作の映画)
4.3
家長父制ってまるで大昔からずっとあったみたいに言われるけど、全然そんなことなかったんだろうな。
八雲恵美子は子どもの約束を守れなかった夫を叱責するし、失業しビラ配りをしていた夫へ意見もする。岡田時彦もときに奥さんのかわりにむちむちした赤ん坊を抱え、病床から帰宅した長女と長男と共に車座になり嬉しそうに手遊びをしたりする。
大学出の東京のサラリーマン家庭など当時の人口比ではひと握りかもしれないけど、失業者が続出する様子も含め現代とリンクするものがある。
病院の床に座る父と子の足のショットが好い。ひまわりの咲く竹の柵の前やビル街を歩く姿などを真横からパンしていくショットはカラックスかジャームッシュか。

子どもの描写にはスケッチやクロッキーのようないきいきとした瞬発力がある。そこに岡田時彦と八雲恵美子も「カロリー軒」の奥さん飯田蝶子もきちんと寄り添っているようすに胸が熱くなる。かぼちゃパンツに腹巻きのデコちゃんはもとより、子役の男の子が一生懸命歌ってる表情見てるだけで泣けてくる。
そのいきいきとした子どもたちの延長上に冒頭の学生時代の体操シーンがある。不真面目ですぐ怠け、権力に対して背中で舌を出すかつての岡田時彦とその仲間たちが描かれる。
教員を辞めた中華そば屋のおやじは『秋刀魚の味』だったか…あの東野英治郎は本当に哀れだった。「一皿満腹主義 カロリー軒」を営む元教員の斉藤達雄は教え子たちに受け入れられ、ほんのひと時朗らかに寮歌を合唱できた。
岡田時彦と八雲恵美子の生活の不安、東京の不安をうっすら漂わせながら、飯田蝶子のリズミカルで楽しげなキャベツの千切りと、小麦粉でトロッとして黄色っぽそうなカレーライスが温かな会食を彩る。カロリー軒。いい名前だなぁ。
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