ミヤザキタケル

ラストラブレターのミヤザキタケルのレビュー・感想・評価

ラストラブレター(2016年製作の映画)
3.5
ラストラブレター
「田辺・弁慶セレクション2018」にて5/25〜5/28に上映される作品です。

今ではない、いつかの未来。
写真家の妻 晶子(影山祐子)を突然の事故で亡くしてから2年、立ち直ることができずにいた夫の隆(ミネオショウ)は晶子をヒューマノイドとして蘇らせることを決意する。
2週間という限られた起動時間の中、生前の妻と変わらぬ容姿と記憶を宿したヒューマノイドと共に生活していく隆であったが…。
蘇った妻と過ごす一夏を通し、失ってからでないと気が付けない人の心・忘れることも割り切ることもできない人の死を描いた作品だ。

生きていれば避けては通れぬ“死”
自分の死はもちろんのこと、大切な人の死も避けられない
家族・恋人・友人・ペットetc…、たとえ寿命を全うして亡くなったとしても、悲しみは絶対に付き纏う
それまで当たり前のように存在していた人がいなくなるということは、どう足掻いても胸を締め付けられる
それでも、時間の経過と共に悲しみに浸る分量よりも楽しかった思い出に浸る分量の方が増えていく
そうしてぼく達は相手の死を受け止められるようになっていく

だけど、不慮の事故・事件・病気などで大切な人を失ったのならどうだろう
死の瞬間に立ち会えなかったり、伝えるべきことを伝えられなかったり、見せたかった姿を見せられなかったりしたらどうだろう
永遠に取り除くことのできない心のシコリができてしまう
時間の経過と共に痛みは和らぐかもしれないが、相手の死を受け止めることなど到底できやしない
自責の念にも近しい葛藤を抱えたまま、生涯を過ごしていくしか無いのだと思う。

この先の未来においてヒューマノイドだのアンドロイドだのターミネーターだのの人型ロボットが当たり前のようになれば、劇中のようなことも可能になるのかもしれない
が、どれだけ似せて作っても、同じ声や記憶や匂いを宿していても、所詮はニセモノ
作り手や欲する者達のエゴの塊でしか無い
亡くなった本人の魂はそこには絶対に宿らない
ドラゴンボールでもなし、死んだ者は二度と生き返らない

でも、自分の心に折り合いを付けるためならば、前を向いて生きていくためならば、何だってアリだと思う
法や倫理はさておき、この辛く険しいことばかりの人生において大切な人を欠いたままこの先も生きていかねばならないのだから、それ位のズルは見逃して欲しい
たとえ嘘っぱちであったとしても、独り善がりな考えであったとしても、絶望に囚われたまま生きていくよりはよっぽど良い
ぼくはまだ祖父2人とペット2匹の死しか体験したことが無いけれど、幸い受け止めることもできているけれど、この先の人生で納得のいかない死に直面したのなら立ち直れる気がしない
劇中のようなことが本当に可能であるのなら、多くの邪な想いや弱さを胸に手を出してしまうだろう。

劇中において、カメラは人の目と同じだと言っていた
基本的には標準レンズを使い、遠くのものを撮る際にはズームレンズを使うとも言っていた
大切な人との距離が縮まれば、やがて特別な時間も当たり前の時間と化していく
近過ぎるが故に見えなくなるものも増えていく
ズームレンズの存在など忘れ去り、気付けば遠くにあるモノすら捉えられなくなってしまう
あって当たり前だと思ってしまえば、その価値を見誤る
一度失わない限り、本当の価値には中々気が付けなくなってしまう

学生時代には疎ましく思えた親の存在も、親元を離れれたり自身も親になれば見え方が変わってくる
守られていたことに、愛されていたことにだって気が付ける
付き合いが長くなりズボラな面が見え隠れし始めると萎えてもくるが、心を許しているからこその変化なのだと汲み取れればやっていける
大事なことは他にいくらでもあるけれど、互いに素を曝け出しても平気でいられる相手こそが長く一緒にいられる相手なのだと気が付ける
気が付いて、後悔して、やり直しがきくことならまだ良い
問題なのは、やり直したり次に活かすことができない場合なのだとこの作品は教えてくれる。

心のシコリを抱えたまま生きている人はきっと世の中にたくさんいる
どうにかこうにか前を向いて生きている人もいれば、どうすることもできずしんどい毎日を耐えるように生きている人もいるのだろう
心のシコリが生じる出来事に直面していない今のぼくでは、この作品を真には噛み締められない
できることなら、噛み締められないまま生きていたい
けれど、噛み締められる日がやってくる可能性は大いにある
どれだけ用心したって、今身の回りにいる人やものを大切にしようとしたって、どこかで絶対に見誤る
一度経験しないと、本当の意味での用心はできっこない

前を向いて生きていく
言葉にするのはカンタンだけれど、とてつもなく難しい
今それができているのだとしたら、多くの人やものに支えられながら生きている証拠なのだと思う
支えを失った時にこそ、今ある幸福に気が付けるのだとも思う
できることならば、失わずとも気が付ける自分でありたい。

ぜひ劇場でご覧ください。

青春★★★
恋 ★
エロ★
サスペンス★★
ファンタジー★★
総合評価:B