SatoshiFujiwara

希望のかなたのSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

希望のかなた(2017年製作の映画)
4.2
振り返ってみるにアキ・カウリスマキ作品は『コントラクト・キラー』と『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』の中の短編『バーテンダー』しか観ていない。前者はジャン=ピエール・レオーが出ているから、後者はオリヴェイラ目当てで観たわけで、カウリスマキ作品にはさしたるインパクトを感じなかったような記憶。今回本作を観たのも別に「よし、アキ・カウリスマキを攻めよう」と思ったと言うよりは「なんとなく」。

で、本作は実に良かったのであります。シリア難民のカーリド(誰が見ても山田孝之に似ていると思うであろうこの役者はシェルワン・ハジという方)が石炭で真っ黒になったままフィンランドに上陸した後、町のギター弾きにシャワーを案内されるさりげないシーンの味わい。ビクストロムがシャツ屋をたたんでカミさんに別れを告げるシーンでのワインレッドの屋内、同じくビクストロムが買い取ったレストラン内部装飾のこれまたワインレッドの内装にしなびた厨房、そしてジミヘンのポートレートが掛かった壁にカーテンを半開きにした窓から差し込む月明かりが落とす青い斜めのライン、そこで煙草をくゆらすビクストロム。これらの画面設計はさりげない、そして揺るぎないカウリスマキの美意識に貫かれていて実に惹かれるものがある。ちなみに煙草と言えば本作では男どもはのべつまくなく煙草をふかしており、個人的には煙草は吸わない、どころか大嫌いですけど、これを見ると煙草って奴は人生の実に大切な伴侶たりうるものであり、人生を覆う退屈と暇の友人なのだと理解してしまえる。映画の魔力。

カウリスマキ的ご都合主義は大いなる楽天性を根底に秘め、本作はいかなる状況であろうとも仲間がいて、そして精神的連帯がある、と映画を観る人に慎ましやかに告げる。この世界も捨てたもんじゃあないね。最後、誰もが死んだと思ったカーリドが遂に見つかった妹を警察に連れて行った後、木に寄りかかりながら見せる安堵とも放心とも取れる表情を最後にサラッと作品を終わらせるそのやり方もまたなんと奥ゆかしいことか。

今さらながらアキ・カウリスマキの良さが分かって来たようです。
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