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希望のかなたのTakaCineのレビュー・感想・評価

希望のかなた(2017年製作の映画)
4.2
【人への温かい眼差し】
アキ・カウリスマキ作品初鑑賞😉🔰
寒い冬に、心をじんわり温めてくれるスープのような味わい。

映画ポスターに採用された1シーン(好きなシーンです)に、監督が伝えたいメッセージがよく表現されていると思います。内戦が激化するシリアから逃れた青年の強ばった心を、振る舞われた温かいスープが和らげてくれます😉

スープに溢れる"思いやり"の心。同情とか建前とか関係なく、「困っている人がいたら助ける」という素直な気持ちが心に沁みます😭

この当たり前の気持ちを、たまに忘れている自分がいて恥ずかしいです😨💦

〈難民問題〉
自国の不利益や暴動を懸念して受け入れ拒否さえ起きている難民問題。日本人の僕には正直どこか遠い問題でしたが、税金や職や福祉の奪い合い、偏見、暴動、宗教の相違、本当の難民と偽装難民の区別の難しさ…人道的支援は大事ではありますが、国民から見たら「助けるのは自国民が先!」というのも率直な意見ですよね。

生活が苦しすぎて拡がってしまう不寛容な世界に、カウリスマキ監督が伝えたい「人間の生き方」とは?

ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞。

〈心に沁み渡る独特な雰囲気〉
カウリスマキの描く世界は、どこか独特でユーモラス。今まで彼の作品を観なかったのは、"ミニマリズム(最小限に切り詰めたスタイル)"と評される演出表現に、僕が着いていけるか不安だったからです😌(彼は小津安二郎を敬愛しています)

静止画のような画面、動きの少ない演技、説明過少な台詞、緩やかな展開がきっと飽きると思ってました。

…が全く飽きませんでした😆嬉!

98分というちょうど良い上映時間も救いでしたけど、主人公の青年カーリド(シュルワン・ハジ。PS4の山田孝之に少し似ている)以外は、味わいのある顔(つまり美男美女ではない)と独特な選曲と絶妙なユーモアがツボにはまりました。

シュルワンは、冒頭の意外な出現シーンから寡黙な存在感が光ってましたね。大げさな演技やセリフを一切排除していても、心細さや哀しみはその瞳から大いに読み取れました(ダブリン国際映画祭男優賞受賞)。

伝統楽器サズの演奏シーンは、彼が演奏出来るのを監督が知って即興で入れたシーンです(曲も彼自身が作曲)。静かに音色に聞き入る人々の胸中はいかに…

素晴らしい音色でした😉♪

はぐれた妹をひたむきに探す兄の顔、どんなに悲惨な目に遭っても諦めない強さ、自分だってお金がないのに街頭で人に施す温情。本来悲惨すぎて暗くなりがちな難民物語が、カーリドが持つ根の明るさで緩和されました。

〈なんだか温かい人々〉
彼自身が"思いやり"を持つ人物ですが、彼を助ける周りの人々の"思いやり"も輪をかけて素晴らしい😊‼️

本作のもう1人の主人公ヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)は、着任したばかりのレストランオーナー。厳つい外見は、無表情だとめちゃくちゃ怖い(笑)!けれど不器用なりに本当は優しい大男。迷い込んだカーリドを、困りながらも助ける姿が素敵です。人生をやり直そうとしている者同士、凄く共感するんでしょうね。

一方、レストランの従業員は自由過ぎる問題児たち😰まず即、解雇したいやる気のなさ(まあ、前任オーナーに問題あったからストライキだったかも)。みんながみんな、フロアーでも厨房でもタバコ吸っててドン引き😌出来合いの料理が不味そう(ミートボールにサーディンの缶詰)😖当然、そんな店だから閑古鳥が鳴いている。

そんな状況でも、カーリドを助けるレストランの人々。

ここに出てくる登場人物たちは、どこか陰があり痛みを持つ優しい人々。特に志が高いわけでもない、普通に生活をしている人々。

そんな普通の人々が、当たり前に子犬を助けるようにカーリドを助けます。この自然な温かさが嬉しいです😊‼️

〈なんだか独特な選曲〉
動きが少ない画面でも飽きさせないのは、全編に流れるちょっと変わった音楽に依るところも大きいです。

冒頭辺りのムード歌謡のような曲「ああ母さん(OI MUTSI,MUTSI)」のちょっと抜けた歌声から笑みが溢れました。この曲の入り方で、この映画が一気に好きになりました😄♪

深刻な顔のカーリドがいる横で演奏される、男の気持ちをハードに唄った「真夜中の男(MIDNIGHT MAN)」。

日本の曲「竹田の子守唄」「星をみつめて」が流れた時の驚き。パンフレットで初めて歌詞の内容が分かりました。

選曲が独特すぎますが、映像と一緒だとユーモラスで凄く強烈♪

不満はサントラCDが限定すぎて、手に入らないところ😖

〈なんだか独特な笑い〉
エドワード・ホッパーの絵画のような計算された構図・色彩・照明・人や家具の配置から醸し出される不思議な美(スチール写真で見るとその素晴らしさが顕著)。完璧な世界観なのに、なんだか可笑しい。

並んで立つ姿だったり、招き猫だったり、ジミヘンのポスターだったり、車に飛び出した時の見つめ合いだったり…シーンとシーンを繋ぐ「間」に込められたシュールな感性が面白い‼️

言葉では説明せず、例えば、無表情で見つめ合う文脈から読み取れる独特の笑い。

コント的なのかもしれません。

従業員がある物をオーナーに隠していたがばれてしまい、「それは何だ?」と聞かれて咄嗟に「(○○の名前)!」とか好きでしたね♪

本作で1番笑えたのが、落ち目のレストランを立て直すための渾身の施策。日本人には特に笑えるこの設定が突っ込み所満載(監督はもちろん分かってやっています)😁

ドリフの「もしもこんな~なお店があったら…」なノリで、てんこ盛りの○○○を見た瞬間、劇場内のあちこちから笑いがありましたね😊♪

ちなみに僕は食べませんよ、絶対に😜❗
そしてお客の日本人たち、少しは怒りなさいよ(笑)

すぐ出てきた泡のないビール(それ、ダメでしょ!)とヴィクストロムの奥さんの大きなサボテン(なぜ大きい?)もツボでした😏♪

難民問題という重くなりがちなテーマを、独特のユーモアとアイロニーで飽きさせず笑わせながら、それでも厳しい現実に目を背けるな!と強いメッセージを叩き込んだ作品でした。

ワンコ(監督の愛犬ヴァルプ)が「ページトップボタン」になっているホームページもなんだか可愛い😆♪
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