くわまんG

希望のかなたのくわまんGのネタバレレビュー・内容・結末

希望のかなた(2017年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ああ、やりきられたんでしょうねぇ…♪

見どころ:
いつものユーモア
いつもの善意コンボ
いつもとイベントの順番が違う
『ル・アーヴル』と同じ終幕
日本大好きカウリスマキ

あらすじ:
シリアで家族や許嫁と暮らしていたカーリド。ある日、どこかの軍の空爆が、一瞬で全部奪っていった。唯一生き残った妹を連れて必死で逃げたが、ついに彼女ともはぐれてしまう。
それでも暴力は彼を放さず、その日は貨物船へ逃げ込んだ。疲れのあまり眠ってしまったが、目覚めるとそこは北欧、フィンランドだった……。

大傑作『ル・アーヴル』の先に果たして何が来るのか…もう大団円しかねえだろ!と思っていたら、かなり抑えが効いた「希望」だった。

そもそも、“彼方”という和訳。the other sideは“反対側”と訳すことの方が多いのを、“彼方”としたのは明らかに意図的。そこへあの複雑な後味のハッピーエンド。驚くべきことに今回は、余韻を残して終わる。

「家族の死と共に神を葬った」カーリドを、「神の祝福」で救った難民仲間。身を助けたのは信仰であり、ミリヤムを救ったのもまた信仰の力。ではその礎とは?やはり善意。許し、愛すること。ヴィクストロムがこれを体現する。ぐうたら店員やカーリドやアル中妻を許すことで己を救う。

自立とはすなわち自身が常に救われていること。神を、約束された未来を、救われた己を、怖れず信じきること。ミリヤムも自立しているため、自身の善意が他人の善意を誘き寄せ、幸運をつかんでフィンランドまでやってこられた。“偽名を使って不法滞在する”は善行ではないため当然よしとせず、そこに一切の葛藤は無い。そんな彼女に「世界一の兄さん」と言われたカーリドが、どんな想いを胸に帰宅したか、想像に難くない。

その矢先。悪意の象徴たる凶刃を突き立てられ、ついに彼は悟る。目に見える金や地位は、欲を煽るばかりで魂を救済することはなく、善意の延長線上にある信仰こそは、何者からも奪われぬ財産であると。善意には善意で、悪意にも善意でこたえる、それが自立であると。災い転じて福と為したカーリドは、ヴィクストロムらの善意に姿を消すことでこたえ、捨て犬コイスティネンと共に善意の先を見やる。彼方は、キリストの領域。さあ、どこまでやれるか…。

これは、『ル・アーヴル』で完結していたものを、味付けを飲み込みやすく変えて出し直してくれたんだと思う。悪意の方が説得力を有してしまいやすい今の世の中、我々の殆どが抱えている満ち足りない感じ、すなわち難民的側面を露にするには、フランスの港町で底無しの親切に触れた少年より、記憶が体系化されたのちおびただしい悪意に晒されたカーリドの方が適役だったか。その方が、ともすれば舌打ちする我々に“甘い”から。エンディングに余韻を残したのも、我々に“甘い”から。

『ル・アーヴル』よりも更に腰を落として、観る者に寄り添ってくれたのだろうか。いつもより易しい入口と、いつもより厳しい出口だった。