SANKOU

名もなき野良犬の輪舞のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

名もなき野良犬の輪舞(2016年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

囚人たちのボスとして君臨するジェホに、若く無鉄砲ですぐに刑務所内でも顔を知られる存在となったヒョンス。
この二人の出会いは互いにとって破滅への道だったのか、それとも人生の苦しみの中に射した一筋の光だったのか。
予想外の展開や裏切りに次ぐ裏切り、そして後出しで発覚する事実によって混乱させられる作品である。
そしてこれは人生に裏切られ、人を信じられなくなったために人を裏切り続ける者の末路を描いた哀しい作品である。
ことの始まりは表向きは海産物を扱う業者だが、裏では薬物を大々的に密売している組織「オセアン貿易」を検挙するために、釜山警察のチョン主任が潜入捜査官を刑務所に送ったことだった。
その潜入捜査官こそヒョンスであり、接触の相手はオセアン貿易のナンバー2のジェホだった。
ジェホは無理心中をしようとした両親に殺されかけ、裏切られ続ける人生を歩んできた。
まるで捨て犬同然だった彼を拾ったのが、オセアン貿易のトップのビョンチョルであり、ジェホは献身的に彼に仕え続けてきた。
しかし思わぬところからジェホは自分がビョンチョルから命を狙われていることを知ってしまう。
ビョンチョルが刑務所に放った刺客からジェホを救ったのはヒョンスだった。
ヒョンスが刑務所に潜入してから二年。
二人の間には親子とも兄弟ともいえるような不思議な絆が芽生えていた。
ジェホはヒョンスに「人を信じるな。状況を信じろ」と教える。
ジェホをアニキと慕うヒョンスは、思わず自分が刑事であることを明かしてしまう。
それでも二人の関係は終わることはなかった。
その理由が何故なのか、物語が進みジェホの思惑が分かるにつれて明らかになっていく。
捨て犬同然なのはヒョンスも同じようなものだ。
彼には病気の母親がいるのだが、チョンは母親の手術費を負担する代わりに彼に潜入捜査を命じる。
ヒョンスに断る選択肢はない。
命じられるままに潜入捜査を続けるヒョンスだが、一向にチョンは彼を解放する気配を見せない。
そんな中で悲劇は起こる。
手術を前日に控えた母親が、突如ひき逃げによって命を奪われてしまう。
ヒョンスは葬式を上げたいと出所を願うがチョンに拒否される。
そんなヒョンスに助け船を出したのはジェホだった。
彼は葬式費用を全額負担し、裏で手を回しヒョンスに一日だけの出所を認めさせる。
「俺のことは信じなくてもいい。でも俺はアニキを信じる」
刑期を終えて出所した後も、ヒョンスの潜入捜査は続行されるが、彼は警察に情報を送っているようで、組織での信頼を勝ち得るために自らの手を明かしているともいえる。
しかし実はジェホはヒョンスが刑務所に送られてきた時から、彼が刑事であることを知っていたのだ。
彼は刑務所内でヒョンスの殺害を命じられていたのだ。
しかし彼は殺すには惜しい男だと、その命令に背いた。
さらに彼はヒョンスの弱みを握るために、母親を殺すための刺客を送ったことも発覚する。
母親の死の真相を知らされた瞬間、ヒョンスの中でジェホへの親しみは憎しみに変わる。
そして彼は「何故今頃知らせるんだ」と真実を告げたチョンに迫る。
チョンはとうの昔に事故の真相を知っていたのだが、オアシス貿易の検挙を優先するためにヒョンスには内密にしていたのだった。
ヒョンスの憎しみの矛先は警察にも向いている。
チョンには都合のいい飼い犬として人の人生を弄んだ者の無惨な末路が待ち受けている。
ジェホとヒョンスという狂犬の間に本当の信頼はなかったのだろうか。
本当に二人が信じたのは状況だけだったのだろうか。
おそらくジェホは裏切る以外の生き方を選べなかっただけで、ヒョンスに対して抱いていた愛情は決して嘘ではなかったと思う。
それはヒョンスも同じだ。
最後はジェホを手にかけたヒョンスが虚ろな表情で空を見上げるショットで終わるが、彼もまた人を信じられないまま哀しい末路を辿ることになるのだろうか。
哀しいストーリーだが、不思議とそこまで重さは感じなかった。
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