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すばらしき映画音楽たちのymdのレビュー・感想・評価

すばらしき映画音楽たち(2016年製作の映画)
4.4
映画ファン、音楽ファン必見の垂涎モノのドキュメンタリー。映画が総合芸術と言われる理由のひとつがここにしっかりと刻まれている。

とはいえ映画における音楽というのは前提として「映像ありき」なので、映像を邪魔するものになってはいけないし、かといって当たり障りの無いスーパーマーケットのBGMのようになってしまってもいけない。

映像の世界観を補完し、(あるいは逆説的にぶつけながら)鑑賞者の無意識下に訴えかけることが要求される。それが非常に困難なことは今作に登場する数々の作曲家・コンポーザーたちが証言している通りだろう。

作中に「ルールがないことがルールだ」的な格言が登場していたけれど、まさしくその自由であること、制限がないことこそが芸術の醍醐味であり難しい部分だ。

ましてやすでにストーリー・映像・コンセプトなどの土台が出来上がった上で、作曲家たちは創造性を膨らませていくわけだから、その重圧は半端じゃ無いだろう。

その「映像ありき」な世界において自らの個性や特長を確立する、ということは並大抵のものではないし、だからこそ映画音楽家の一般的なイメージというのはジョン・ウィリアムズ、ニューマン一家、ハンス・ジマーら数名ほどしか浮かばないのだろう。

なので今作は知られざる作家たちの創意工夫の一端を垣間見れる貴重な資料だし、今作を通過したあとの映画鑑賞体験というのはまた一つ違った景色になると思う。

翻って映画としても今作はよく出来ていて、映画音楽の変遷やエポックメイキングな出来事を時系列で扱いながら、重要なインタビューの数々を配置し、前半は作曲法について言及していく。

そして後半はその曲を実際にレコーディングしていくカットを映していくわけだけど、楽曲に関わるひとりひとりのプロフェッショナルな姿勢は、メディアの片隅に身を置く自分としては大いに感化されるし、(作曲家や脚本家などの)“生み出す者”だけではなく(エンジニアや編集者や演奏者などの)“形にする者”たちがいてこそのコンテンツ産業である、ということを雄弁に語る後半パートにはめちゃくちゃ勇気づけられた。

正直言うと、サウンドトラックCDとかほとんど持っていないわけだけど、これからはもっと意識して向き合いたくなる。音楽は最高。
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