茶一郎

女と男の観覧車の茶一郎のレビュー・感想・評価

女と男の観覧車(2017年製作の映画)
3.8
 下から上がって、ようやく綺麗な景色を見られたと思ったら、また下に戻る、結果的に何も進まない、その観覧車の運動さながらのどうしようもない中年女性の悲劇を描く『女と男の観覧車』。
 御歳82にして毎年映画を1本作り続けている化け物監督ウディ・アレンによる新作ですが、そのウディ・アレン監督もMe too運動への不適切としか思えない発言によって過去のスキャンダルが再度、沸騰し、ようやくお休みの期間に入るのでしょうか。

さて、本作『女と男の観覧車』は1950年のコニーアイランド、寂れた遊園地を舞台に、観覧車の下で暮らす中年女性ジニー(ケイト・ウィンスレット)とビーチ監視員にしてイケイケの若い男の浮気から始まり、突如コニーアイランドに現れたジニーの暴力夫の前の奥さんとの娘、火遊びで大人たちを困らず問題児のジニーの連れ子を巻き込む悲喜劇を描いていきます。
 ウディ・アレン監督による中年女性の悲喜劇としては、楽観的な『カイロの紫のバラ』、シリアスな『私の中のもうひとりの私』、特に近作で最も評価の高い『ブルー・ジャスミン』の系譜の作品、本作の強い演劇的側面を取り出せばウディ・アレン版『欲望という名の電車』であると言えます。
 何より本作を印象付けるのは、ジニーのいる悲痛な現実を照らす観覧車の幻想的なオレンジと青の光。前作『カフェ・ソサエティ』に引き続き、撮影監督はベルナルド・ベルチリッチ作品でお馴染みのヴィットリオ・ストラーロ。ウディ・アレンの記憶を幻想的に再現すると共に、本作のテーマである「現実」と「幻想」の対比を際立てていました。

 才能と現実、現実と幻想、一つ一つの歪みが重なり、現実の厳しさが、ダムが決壊した時のように登場人物たちを襲うラストは圧巻です。
 特に心に刻まれたのは、そのダムが決壊する寸前、主人公ジニーが、映画好きの息子に「映画に行こう」と誘われて断るシーンでした。『カイロの紫のバラ』において現実の厳しさに耐えかねた主人公は、劇場に吸い込まれる形でスクリーンを見つめ明日への生きる希望を得ます。きっとジニーがあの時、息子と映画に行っていたら未来は変わっていたのではないかと思わされます。
茶一郎

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