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女と男の観覧車のdojiのレビュー・感想・評価

女と男の観覧車(2017年製作の映画)
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演劇を志していた若かりし頃のじぶんに囚われた女性をケイト・ウィンスレットは完璧にまで演じている。彼女が激昂するたびにほんとうにぞくっとしてしまったし、肉体ごと役に入り込んだ姿は、さらにこれからもっと出演作を観るのがたのしみな俳優さんだなと思った。

演劇の世界でしか生きられない彼女が、まるでセリフを言うかのようにことばを述べるシーン、わざとらしいくらい情熱的な赤と悲愴的な青の照明を用いた演出がされていて、これまでのウディ・アレンの作風からしたら新鮮な印象。ただ、現実に戻った時とのコントラストや、カメラでいえばフィックスと動きのあるショットの全体的なバランスがすこし統一感を欠いているかなとも思った。

50年代のコニーアイランド、遊園地の中の借り住まいの暮らし、そしてお馴染みのジャズの音楽、第四の壁を越えるジャスティン・ティンバーレイクの語り、これほどまでにないほど素材は揃っていてるのだけれど、過去に取り残されてしまったまま出ることができない女性の話としてシンプルにまとめた方が、ひょっとしたら『ブルー・ジャスミン』に並ぶ傑作になっていたのかもしれない。

彼女が彼に愛していると電話で言ってしまうとき、電話越しに彼の声は一切聞こえない演出がされている。さらに、ドレスを身にまとい独白のようにたたみかけるラストシーンも、あくまで彼は彼女のステージの外側の人間であって、カメラは彼を映さない工夫をしている。そういった彼女の視点に入り込む効果的な仕掛けがなされているのに、どうして語り部として彼が登場しなくてはいけないのか、ぼくには分からなかった。『ブルー・ジャスミン』と同じようにはしたくなかったということだろうか。

それにしてもあの子どもの役者さんがいい顔をしていて、彼の放火シーンはどれも好きなのだけれど、ウディ・アレンはあんまり子どもに興味がないのかなとも思う。ユーモラスに傷ついた子ども描くのがうまいウェス・アンダーソンなんかがいるので、いろいろと複雑に思った一作だった。
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