グラッデン

女と男の観覧車のグラッデンのレビュー・感想・評価

女と男の観覧車(2017年製作の映画)
4.0
嫌いなのに好きなフリをしていた

物語は大体「いつものウディ・アレン」。作品の舞台は前作『カフェ・ソサエティ』に続いて1950年代のアメリカ。

ウディ・アレン監督のフィルモグラフィを振り返ると、一時期は世界各地を舞台にしてきましたが、近年はアメリカに回帰の動きを見せており、本作は原点であるニューヨークに里帰り。観覧車が見える風景は、監督の代表作『アニー・ホール』を思い出していました。

本作は「夢↔︎現実」と「過去↔︎現在」の2つの軸を中心に展開されていると思います。このように抽象化してみると、ウディ・アレン監督作品の普遍のテーマ性が本作の骨格となっていることが気づかされます。

ヒロインの40歳を迎える女性は、若い頃に断念した女優として活躍する夢を捨てきれずにいる。彼女にとって、過去の記憶や夢のカケラはハードな日常を一時的に忘れさせる鎮痛剤のような役割を担っていることに気づかされます。

そんな彼女が出会った劇作家志望の青年は、夢の続きを見せてくれる存在だったと思います。自分の過去を全て肯定するとともに、そして彼について行けば、ハードな現実を捨て去り、叶えれらなかった夢を叶える未来を見ることができるかもしれない、そんな願望が徐々に彼女を変えていく。

近年では『ブルージャスミン』がそうでしたが、ウディ・アレン監督の女性を中心とした作品に潜む、静かなる狂気の描き方は男性としても怖さを感じた。年齢を重ねた女性が見せる執念と嫉妬がジワジワと感じる。そんな難しい役を見事に演じ切ったケイト・ウィンスレットも素晴らしかったです。

また、男性視点でハッとさせられたのは、過ちを犯した彼女に手を差し伸べた再婚相手に対しては感謝はあれど、愛はないとハッキリと述べたことです。「喪失からの再生」という構図は、奇しくも先日鑑賞した『恋雨』のテーマと被りますが、この時に店長が述べた友情という表現は的確だったのだなと感じさせられました。

男女のすれ違う感情を動力に運命のゴンドラは回る。遠くに行ったような感覚にもなるが、最後は元の場所に帰ってくる。この作品のタイトルに観覧車の名前を付けた意味が、鑑賞を終えて理解できました。