MasaichiYaguchi

終わった人のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

終わった人(2018年製作の映画)
3.4
脚本家・内館牧子さんの同名小説を「リング」の中田秀夫監督が、舘ひろしさんと黒木瞳さんのW主演で映画化した本作を観ていると、とても他人事とは思えない。
大手銀行の出世コースから外れ、子会社に出向されたまま本社に戻ることなく定年を迎えた主人公・田代壮介の第二の人生のスタートを、困惑や焦り、葛藤と共にじたばたする様を、妻をはじめとした家族や親しい人々との関係の中でユーモアやペーソスを交えて描いていく。
タイトルが意味するのは、サラリーマン生活や扶養義務から解放され、社会的に第一線から退いた人を指していると思う。
とはいえ、平均寿命が男女とも過去最高を更新し、女性87.14歳、男性80.98歳の現在、60歳では20年以上、嘱託で残って65歳まで勤め上げても15年以上残りの人生がある。
一介のサラリーマンである私からすれば、出向された子会社の重役で定年を迎えられたのだから満足して良いと思うのだが、最高学府を出た本人にしてみれば、忸怩たるものがあって「まだ俺は成仏していない。どんな仕事でもいいから働きたい」ということになるのだと思う。
私も何年後かには主人公同様に「終わった人」になるので、この心境は分からないものではない。
リタイアした老人たちが図書館やスポーツセンター通いしたり、パチンコや競輪、競馬等のギャンブル通いしているのを時折見掛けるが、出来れば私も何らかの仕事に従事して、余暇に趣味を楽しめればと願っている。
そんな主人公の壮介に妻や娘は冗談交じりに恋愛を勧めるが、この勧めが思わぬ出会いを生んでいく。
この映画は、主人公の第二の人生を妄想や高揚感、そして苦い現実を交えて浮き彫りにしていく。
自分を差し置いて言うのも何だが、壮介を見ていると、本当に男って身勝手だと思う。
そんな身勝手さが身から出た錆となる壮介だが、この作品は最後に我々同世代に優しさを持ってエールを送ってくれます。