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オラファー・エリアソン 視覚と知覚のchiakihayashiのレビュー・感想・評価

3.9
@試写
 オラファー・エリアソンの名前は知らなかったけれど、たぶん、これまでにない新しい知性の持ち主なのだと想う。

 「大自然を都会で体験し、環境を考える機会にするのだ」と、2008年、ニューヨークのイースト・リバーに4つの巨大な滝を出現させた現代美術家。その制作費約17億円、経済効果75億円以上(どうやって計ったのだろう? もちろん、企画のプレゼンテーションでは経済効果もポイントだったはずだけれど)。

 彼のコンセプトは言葉にすると平凡だけれど、彼の真摯さ、誠実さは疑いようもない。このドキュメンタリーでは時に観客に向かって彼自身が文字通り視覚と知覚のズレや広がりについてレクチャーをしてみせる。デンマークの自宅から朝一番の国際線でベルリンのスタジオへ。多くのスタッフを抱えた大所帯の、町工場のような、理科の実験室のような工房。アフリカ系の子ども2人をたぶん養子に迎えたのだろう、父親の顔になる時も、アイスランドの荒涼たる風景への撮影旅行の時も、彼自身はいつも繊細な感受性を身に纏い、どこか一途に思い詰めたような佇まいをしている。

 試写会場で作家の池澤夏樹さんの姿を見かけたことからの連想だけれど、オラファー・エリアソンの知性のベースもおそらくは理系で技術系。しかしながら、アーティストという自己と世界の意味を問い続ける求道者。

 昨年、レクチャーを聴いたフランスの科学人類学者ブルーノ・ラトゥールの「博物館学」の試みに通じているのかもしれない。テクノロジーが生命観、人間観を変えようとしている時代に、芸術的な身体感覚で立ち向かうという道筋のひとつを指し示しているアーティスト。

 今年8月4日から11月5日まで開催されるヨコハマトリエンナーレでは、彼が難民のために協働して世界各地で展開しつつあるGreen Lightというプロジェクトが紹介される。
 
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