セッセエリボー

オラファー・エリアソン 視覚と知覚のセッセエリボーのレビュー・感想・評価

3.6
私事ながら卒論の代わりに「ウェザー・プロジェクト」というアイルランドの短編小説を翻訳したのだが、タイトルとなっているロンドンのテートモダンに擬似太陽を現出させるこのプロジェクトの仕掛人がオラファー・エリアソンだった。映画の中でニューヨークのハドソン川に人工の滝を幾つも建立した彼が「私にとっての空間とは街のようなものであり、そこにはたくさんの物語が存在している。私はそこにひとつの物語を加えたに過ぎず、そこからまた新しい物語が生まれていけばいいと思う」みたいなことを言っているのを聞きながら小説の内容を思い出して、ロンドンの街に彼が作り出した物語が一組のアイルランド人母娘の人生の物語としっかり交錯しているのをしみじみ感じながら、あの短編はエリアソンにとってみれば本懐だなあと思いました。これはまあ、個人的なこと。

知覚を変える(開く)、というと難しく思えるけど、ちょっと発想を変えるだけでいいみたい。ちょくちょく挟まれる観客向けのワークショップが面白い。映画という媒体を、映画以外のもの、たとえばランプだと思ってみる。すると我々の意識はスクリーンを離れ、劇場という空間全体へ、そこに座って同じ画面を見ていた人間全員と拡大される。そして画面の光の色が変わるたびに、照らし出される空間もまた様相を変える。ただ見ているだけでは意味がない、体験しないと、と言うエリアソンの考え方に基づいた独特の映画体験だった。さらにまた、そうした身近な発想転換がエリアソンの芸術に直結していることも、ドキュメンタリーを通して感じられた。

でもこのひと凄く真面目に芸術やってるな。仕事でやってる感じする。そのせいもあってかあんまし面白くない。音楽は良い。