茶一郎

ホールド・ザ・ダーク そこにある闇の茶一郎のレビュー・感想・評価

4.1
 『ブルー・リベンジ』、『グリーンルーム』と暴力映画の快作を生み出し「21世紀のサム・ペキンパー」と評されて来たジェレミー・ソルニエ監督の新作は、「ブルー」、「グリーン」と来て「ダーク」、10時に陽が出たと思ったら午後3時半には沈んでいる、一日のほとんどが夜というアラスカを舞台にしたミステリー『ホールド・ザ・ダーク』です。

 本作『ホールド・ザ・ダーク』はソルニエ監督作品の中でも初めて監督以外(担当しているのは監督デビュー作『ブルー・リベンジ』の主演にして最近では監督デビューを果たした盟友メーコン・ブレア氏)が脚本を担当している作品ですが、『ブルー・リベンジ』における田舎の犯罪一家、『グリーンルーム』での閉塞的な土地で権力を持ったネオナチ達同様、物語の背景となる土地だからこそ生じた暴力、その連鎖を見せつけます。本作におけるその「土地」は言うまでもなく、辺境の地アラスカで、「温もり」を忘れてしまったある人物(獣?)の異常性と向き合う主人公の視点が物語を動かしていきます。
 
 一面の雪景色の中起こる暴力と言えば、ホワイトノワールと呼ばれた『ファーゴ』を始め特に近作であるネイティブ・アメリカンの保留地を舞台にした『ウインド・リバー』を思い出します。
 しかし、ソルニエ監督は『ウインド・リバー』のある種、引いた目線からの乾いた暴力描写とは異なり、じっとり思わず「痛い痛い」と言いたくなるほどに嫌〜に映していく。これは流石、『グリーンルーム』の嫌〜な「手」への暴力描写で観客を悶絶させたソルニエ監督と言ったところで、本作でもお得意の同一カット内での「撃たれる」→「倒れる」→「出血」(ご丁寧に吹き出る血が脈拍と一致する)という暴力描写を複数回見せてくれます。

 「狼の群では群を救うために、若い狼を食べねばならない時がある」
 アラスカの闇、一方では快晴、カラッとしたイラクで生じた闇。アメリカの暗部と言える二つの場所で闇を抱えた二匹の狼は「温もり」を唯一感じられる場所で身に付いた汚れを落とし、孤独を和らげ群れに帰る。本作『ホールド・ザ・ダーク』は即物的な暴食描写と観念的な「ダーク」が共存する、ソルニエ監督の新天地的作品として記憶に残る一本です。
茶一郎

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