TAK44マグナム

悪女/AKUJOのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

悪女/AKUJO(2017年製作の映画)
4.3
その銃弾は愛をも殺す・・・!


殺人機械として育てられ、過酷な運命に翻弄される最強の女アサシン、スクヒ。
彼女を濡らすのは、男たちが降らす血の豪雨だった!

映画が始まると、間髪入れずに「ハードコア」も真っ青な一人称視点による主観ヴァイオレンスが延々と続きます。
次から次へと、わらわらと現れるギャングたちの息の根をとめてゆくスクヒ。銃弾をぶちこみ、ナイフで喉元を切り裂く!
やがて鏡に映るスクヒの姿、そこからカメラは彼女を中心にグルグルと回りだし、怒涛のバトルを有無を言わさぬように見せつける!

何の説明もなしに、観ている観客を映画の世界に引きずり込む最高のオープニングが終わると、警察に逮捕されたスクヒがある施設で目覚めるところから、彼女の哀しくも切ないドラマがスタートします。
お話の内容自体はよくあるベタなものですが、それまでのスクヒの人生を振り返る回想シーンがシームレスに挿入されるため、それが流れに変化をつけていて良かったです。

愛憎入り混じるドラマも大切ですけれど、やはり本作最大のポイントはハードでエクストリームなアクションの数々でしょう。
「そんなアホな!」と、思わず呟いてしまう、とんでもなくクレイジーなアクションが、どうやって撮ったのかサッパリ分からないカメラワークにより今まで見たことのない斬新な映像となって、嫌というほど繰り出されます!

こんなカメラのムーヴは初体験!
超接写も多く、何がどうなっているのか正直把握できてないカットがたくさんあるんですが、有無を言わさぬド迫力に平伏すしかないでしょう!

特にすごいシークエンスは、冒頭の擬似ワンカット長回し大量虐殺を除くと三箇所。
まずは、施設をでるための卒業試験。つまりは標的の殺害なのですが、すごいのは殺害の成功後に突入するバイクチェイス!
全盛期のショー・コスギを思わせる濃いアイメイクを施したスクヒは、ある理由から逃走のタイミングを遅らせてしまいます。
何故か日本刀を武器にする(日本人だからか?)追っ手のバイカー軍団!
猛スピードで走行しながらの、まさかのチャンバラ開始!
いや、これフツーに無理っしょ!
バイクで走りながら(しかも逆走!)斬り合うなんて、偉大なる忍者スターであるショー・コスギ先生だってやらなかったよ!

お次は、半裸姿の女子2人と標的のオッサン2人によるセメントなタッグマッチ!破れた方に贈られるのは当然、地獄への片道切符!
狭い空間の中、抱き合うどころか刺し合う男女の血まみれ無情、そして訪れる悲劇・・・
スクヒは、血も涙もない世界に疲れ果てます。
シャワーで血を洗い流しながら泣き崩れるスクヒ。
いくら流しても流しても、流れ落ちてゆかない。自分の人生とは何なのか?
しかし、血に染まった彼女に優しく触れる者がいました。
スクヒにとっては謎の隣人であったヒョンス。
最後に人を信じてみたくなったスクヒは束の間の安息を得ますが、その選択が更なる悲劇を生み出すことになってしまうのです。
そう、ウェディングドレス姿で長距離狙撃とかやっている場合じゃないのです!
それはただ、ビジュアル的に最高に絵になるからやってみたかっただけだろうし!
言わんこっちゃない、案の定、事態は急転直下、まさかの黒幕が登場しますよ。
そして、その黒幕こそがスクヒの人生を狂わせた張本人。
激しく動揺するスクヒ・・・もう誰も信じられない!

呪われた運命に対し、懸命に抗おうとするスクヒをあざ笑うがの如く、一瞬にして全てを無に帰す黒幕の所業。
ついにブチキレたスクヒは、殺人機械としての自分を120%解放、最後の復讐戦のゴングを鳴らすのでした!
どんなゴングかって?
そりゃ、とんでもなく派手なやつですよ!空飛ぶし!壁壊すし!
いよいよここから三箇所目の目玉アクションの開始だぜ〜!

詳細は観てのお楽しみという事で省きますが、とにかく撃ちまくりからの殺りまくり!
縦横無尽なカメラが撮り損じなしとばかりに追いまくる!
渋いセリフ満載の、黒幕とのタイマン勝負を経て、その不死身っぷりに拍車がかかるスクヒ。
もうほとんどターミネーター!
やべえやべえとバスに乗って逃走する敵をびっくり仰天の運転テクニックで追いこみをかける!

死闘の果てに、スクヒはどうなってしまうのか?
何故、「悪女」というタイトルなのかが明確になる、鮮烈で衝撃的な最後の姿に誰もが思うことでしょう。
「これってホラー映画だったっけ?」
それにしても、韓国映画って最終的にホラーになってしまうのが多くないですかね(汗)

こんな地獄のように苛烈な映画を撮ったのは、日本でもリメイクされた「殺人の告白」で注目を浴びたチョン・ヒョンギル。
自身がアクションスクール出身ということがあってなのか、非現実に見えるアクションシーンの設計も綿密な計算のうえで成り立っているのだろうと納得できる、素晴らしい演出手腕。
一方で、日常パートは本当にベタな脚本をベタに撮っているのはわざとなんでしょうか。

キャスト陣は、スクヒ役にキム・オクビン。
テコンドーとかの黒帯所持者らしく、動きは上々。
どこか薄幸そうなルックスも相まって、スクヒ役にピッタリな女優さんですね。
危険なアクションも9割は本人が演じているとの事、やる気も凄いし、やりきった実力も相当なもの。韓国国内に限らず、アクション映画に呼ばれる可能性も高いのではないでしょうか。
是非、日本のメジャー方面のヌルいアクション界にカツを入れてほしいですな!

その他、ヒョンス役に小栗旬みたいな雰囲気のソン・ジョン。
スクヒの育ての親であるジュンサン役はシン・ハギョン。
クールな風貌のクォン部長役をキム・ソヒョンが演じております。
あと、スクヒの最愛の娘ウネちゃんが、ちょいとプー子ちゃんなんだけれど仕草や話し方が可愛いんですよねえ。
殺伐とした映画の中で一服の清涼剤というか、癒されます。
それなのに・・・この映画、ほんと鬼畜ですわ!


兎にも角にも、女アサシンが戦う映画と聞いて、レザージャケット女子がスタイリッシュに銃を弾数無制限で撃ちまくるようなのを想像していると思わず火傷する、まさに狂気の鬼ドロドロアクション映画でございますので、重々、取り扱いに注意して鑑賞するように致しましょう!

途中まで誰と誰が、どことどこが戦っているのか状況が分かりにくかったり、なんか似ているオジサンが出てくるので人物相関がゴッチャになってしまったり、整理整頓が雑なところもありましたが、そんなのは些細な事。
最凶の復讐ノワール、オススメです!


劇場(横浜ムービル)にて