ユンファ

悪女/AKUJOのユンファのレビュー・感想・評価

悪女/AKUJO(2017年製作の映画)
4.8
冒頭から主観アクションで観客を主人公と一体化させ、一瞬で客観視点へと切り替わってもカメラはぐるぐると回り続ける。
主観と客観の境界は破壊され、カメラ(観客)は片時も主人公から目を離すことが出来ない。
アクションの合間にドラマ(劇)が挿入されるのではなく、アクション自体がドラマになっている。アクションが始まってもドラマが停滞することなく、むしろ数倍速で展開されていくのだ。
物理的なアクションのないシーンでも、常に心理的なアクションがあり、本来なら必須の説明的な描写や台詞を削ぎ落とし、劇的な瞬間だけで構成されている。
「悪女」は、「ザ・レイド」や「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」などと同じく、極めて原初的なアクション映画なのだ。

ドローンの登場やCG技術の進歩は、様々な映像表現を可能にし、映画は日々進化し続けている。アクションシーンだけ切り取れば、「悪女」よりも優れた表現がYouTubeで幾らでも見られるかもしれない。
それでも、僕が「悪女」を賞賛して止まないのは、そこにドラマがあり、情が入り込んでしまうからだ。ムキムキのマッチョマンがサムズアップしながら溶鉱炉に沈んでいくだけで涙が出るのは、そこに至るまでの120分で僕ら観客の感情が彼に入ってしまうためだ。

僕ら観客は主人公の女暗殺者に一瞬で感情を鷲掴みにされ、ぐるぐる振り回されたあげく、投げ飛ばされる。
124分間、何度も何度も何度もだ。
正直しんどかった。
ポップコーンが喉を通らなかった。
吐きそうだった。
クライマックスのアクションには、涙が出た。全力でクソ野郎どもをぶっ殺し、返り血を全身に受け止める彼女とシンクロした。

VRという技術が登場し、「見る」から「体感」する時代が到来した。
それでも、僕は言いたい。
本当に優れた表現は、「体感」をも超えるのだ。
ユンファ

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