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囚われた国家のはるのレビュー・感想・評価

囚われた国家(2019年製作の映画)
4.7
4月初旬の公開直後に観て、帰宅前に寄ったスーパーで様子がおかしいことに気づく。そこで察するものはあったが帰ってからニュースを見て緊急事態宣言の対象に自分の住んでいる県が含まれたことを知った。今作の出来の良さ、内容を思い返しながら、この現実の状況を考えると不思議な巡り合わせになったなと思ったし、そうしたことも含めてとても印象深い作品になった。先日の2回目の鑑賞ではさらに楽しめたし、強度のあるSF作品だとあらためて感じた。
低予算SFという前知識があったので、導入からの状況説明描写は納得だ。一方で与えられる情報は多くもありながら抑制されている部分も多くある。
群像劇ともいえる今作は登場人物たちが等身大で「誰かが」ということでない。そういう彼らが何に抵抗し、何を成しえるのか。「Light a Match, Ignite a War(マッチを擦り、戦いを起こせ)」という繰り返される文句があり、熱を帯びていく過程がたまらない。

さてネタバレ。
原題は『Captive State』ということで「States」じゃなく「State」であるのをどう捉えるか。「国家」で良いのか合衆国での「州」なのか。
この場合なら舞台となったシカゴが属するイリノイ州ということになるが、今作では州単位での描写はなかったので支配下での新しい「State」なのだろう。またこれまでUS映画でシカゴはどう描かれてきたかは気になるところ。印象として「犯罪」について多く描かれてきた都市で、映画でもTVドラマでもそう。
劇中の湖はミシガン湖で対岸はミシガン州。ガブリエルと友人はボートで対岸に渡ることを計画していた。そこには「自由がある」と言っていたが、ガブリエルのGFは「不法地帯よ」とも言っている。この辺りから主要都市部とそれ以外の状況、扱いが伺えるが、情報統制による印象操作かもしれない。
冒頭でドラモンド一家が郊外へ逃げようとしていたが、そこで夫妻の会話の中に「『再集結して反撃』それが計画だ」というこれも劇中で繰り返される文句がある。侵略が始まった早い時期から、ジェーンやマリガン達の中で共有された組織的な抵抗の意思があったということになる。

あの印象的なエイリアン造形は、地球人に対して「どう見えるか」の為のスーツデザインの選択を奴らがしている、と受け取ったので、こけ脅しを狙う奴らの臆病さやセンスの悪さを十分に示していると思う。ただし、奴らの生態や能力などを掘り下げるのは筋が悪いだろう。意外と脆い存在であること、それだけわかっていれば良いのではないか。

今作では支配や監視への抵抗が描かれるが、面白いのは劇中の現在(2027年)のほぼ丸一日の間に計画が進行し、その後の余波までをとてもコンパクトにまとめたところだろう。支配や監視はレイヤーになっていて、字幕では「統治者」と呼ばれるエイリアン「Legislator(議員の意)」と地球人、そして地球人の支配層と民衆、さらに民衆の間にも監視の網は広がっている。
通信を抑えられたことで反乱の計画もかつてのレジスタンスのような手法(手書きメモ、伝書鳩)を用いたり、電話回線を使った「音響カプラ」の利用などの工夫をしている。新聞広告やラジオ放送も交えて短い時間で情報の伝達がなされるディテール描写が熱い。

今作に「英雄」はいない。ラファエルも怯えていたし、他のメンバーも危機に際して取り乱しもする。神父はクスリで恐怖を抑え込んだ。ガブリエルは兄に向かって「英雄ぶるな」と言ったが、兄にそのつもりがないことを理解できていない。あの時点では。
そうした人々が信念に従って連帯し計画を達成するがその代償も描かれる。あのラファエル達がNY行きのバスに乗って逃亡しようとするくだりは緊迫感があり印象的だ。
都市間での長距離移動は開かれているということなのだろうが、ソルジャー・フィールドでのテロ直後の割にはチェックが緩い。あのテロでの主な被害者は「Legislator」と支配層だったということで、民間人にとっては距離感のある事件でもあるし、この後にシカゴで起こることを考えると多くの人たちが避難したかったはずで、バスは満席だった。だから混乱していたと見るべきでは。それに乗じて逃げるという計画だったのだろう。
ただしこのテロに巻き込まれて死んだであろう「一般人」も多数いたはずで、その代償は払われた。

ガブリエルはブレながらも理不尽な抑圧に抵抗する気概はある。マリガンはそういう彼を見定めるようにして見続けてきた。そして状況が整ったところであの映像データを手渡す。「これからは私に従え」と言い残し、本部長に昇格したマリガンはあの透明の爆弾を身に纏って、Legislatorのいる地下の閉鎖区域へ下っていく。
エンドクレジットではシカゴを皮切りに世界中の主要都市で反抗が伝播していくことが伝えられる。実は各都市の「No.1」は繋がっていて、同時多発的にシカゴと同様の計画が実行されたのか。
マリガンが言い残した言葉、さらに「再集結して反撃」「マッチを擦り、戦いを起こせ」はガブリエルに託された。そしてレジスタンスメンバーの元軍人らによって逃がされたあの少年にも。そういう継承の物語でもあった。