きまぐれ熊

累 かさねのきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

累 かさね(2018年製作の映画)
3.9
原作は途中まで読んでて完結したら読もうと思ったまま機会を逸している勢。

んー、中途半端に原作を読んでるせいでうまく感情移入できんかった。完結まで読んだらまた違う感想を持てるのかもしれないが。

芳根京子演じる累の顔の造形がどこまでいっても口が裂けただけの美人なので、「顔に傷がついたことによる劣等感」しか感じられないんだよなぁ。
累がニナに対して持っている感情って劣等感だけじゃなくて、もっとどろっとした感情なはず。
要所で羽生田が代弁してはいるけど、セリフで説明しないと伝わらないから入れたようにしか見えない。

原作だと生まれつき異形で、超絶美人女優の親に一切似てない上に顔は醜いしで、まともに人として扱われてなかった分、劣等感の次元が違うというか、生まれつきあらゆる機会を奪われていることに対する怒りや呪いに近い感情のはずなんだけど、顔の造りの良さのせいでどうやっても結び付かない。

ニナが入ってる時の芳根京子だとどう考えても普通に美人。傷があろうがモテるよこれ。土屋太鳳と芳根京子の造形が似てるのも不味くて、これだと単に累の性格が暗いだけじゃんってスケールの話に見えちゃう。
そのおかげで累の性格の湿度とか苛烈さみたいなのが感じ取りづらくなってしまっていて、色々な要素が抜け落ちてしまっている。そのお陰で累の女優としての表現力の才覚の源泉がそういった環境にもあったことに説得力を持たせるに至ってない。もちろん、演技の上ではちゃんと表現されているんだけど。

何が言いたいかというと、「顔の傷という記号」だけで観客が累の異形度を想像で補完しなきゃいけないなら、それ漫画でよくね??って思っちゃう。

...でも厄介なことに原作と比べず単体の作品として見ると出来はいいんだよな〜。

背景や衣装の作り込みも気合入ってるし、
演技が過剰気味なのもストイックかつ浮世離れした演劇の世界にマッチしてるし、
累の入り込みの演出も凄すぎてちょっとホラーに片足突っ込んでるのもいい感じ。
まあ一番怖いの累の母ちゃんなんですけど。
それに必要最低限のキャラで焦点をニナだけに絞ったのも良かったと思う。

主演2人の演技はかなりいいし、入れ替わりも自然。上で散々書いたこと、演技・演出の上ではちゃんと表現されてるし。
劣等感が隠しきれなくなってどんどん猫背になっていくニナとか、累の勝ちを確信する仄暗い笑みとかゾクゾクするしな。
要するにキャストのチョイス以外はほとんどいいんだよな〜。

これ原作ファンってどう思ってるのかな〜。
一度原作を最後まで読んでからもう一度見直そうかな。
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