Kumonohate

累 かさねのKumonohateのレビュー・感想・評価

累 かさね(2018年製作の映画)
3.8
まさに幾重にも「かさね」られたお話。

まずは、【顔に傷のある女 vs 美人で●●な女】 のドラマに、劇中劇である「サロメ」のテーマが重ねられる。さらに、2人の女を演じる 【芳根京子 vs 土屋太鳳】 のイメージが重ねられる。そんな3つの層が巧みに重ねられたお話。

そもそも、2人の女優が演技者としてぶつかり合う映画は好きだ。古くは溝口健二の「祇園囃子」。【ピチピチ舞妓 vs ベテラン芸妓】 のガチンコに、【デビュー2年目の若尾文子 vs デビュー15年目の小暮美千代】 のガチンコが重ねられた傑作だと思う。

だから、同様の(しかも層が1つ多い)構造を持つ本作も面白かった。

加えて、「祇園囃子」の時代に比べると、我々は女優の情報をうんと持っている。芳根・土屋両名とも、朝ドラ「花子とアン」に出演した後、それぞれ「まれ」「べっぴんさん」のヒロインとなり、その後は……といった、彼女等のプロフィールや評価やポジションを知っている。そして本作は、そんな彼女等の実像(本当は虚像かもしれないが)を巧みにドラマに重ねてみせる。なので、役柄と女優の重なり具合は「祇園囃子」の比ではない。そしてこれが本作の肝。未読だが、おそらく原作とは楽しみ方が違うのだろうと思う。

そして、こうした多重構造の下、ヒロイン2人の体が何度も入れ替わり、そのことによって彼女たちの心が次々変化してゆく。そのため、層と層、人格と人格、さっきの自分と今の自分、の境界線がどんどん曖昧になってゆく。その変幻具合が(たぶん緻密に計算されていると思うが)すごく良い。

もちろん、恋への落ち方とか、優越感や劣等感の抱き方とか、互いへの敵意と愛情とか、物足りなく感じる箇所はいくつかある。だが、それでも、両ヒロインのガチンコ勝負はスリリングだったし、これまでの彼女たちのイメージを払拭するチャレンジングなものだったし、2人とも難しい役柄をよく演じきったと思うし、サロメを演じるヒロイン(土屋太鳳)の鬼気迫る舞踏は圧巻だったし、巧みな構造以外にも見どころはたくさんある。
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