あんがすざろっく

此の岸のことのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

此の岸のこと(2010年製作の映画)
4.2
フォロワーさんのレビューを拝読して、とても惹かれました。

今日本が直面している、老老介護問題。
自宅で最後まで生活できるって、1番の理想だけど、ピンピンコロリとは、なかなかいかない気がします。

体力、メンタル、金銭面、地域との交流、インフラ。
ゾッとするほど、目の前には多くの問題が転がっています。

本作は、そういった問題を描きながらも、物語の核となるのは老夫婦の日常。


医療や介護の仕事に就いてたり、身近に介護をしているご家族がいなければ、介護問題というのは、なかなか真に迫ってこないかも知れません。














ここから先は、ネタバレになってしまいます。
でも、是非沢山の人に見て頂きたい。
映画館やテレビ放送ではなかなか触れる機会のない、こういった作品を配信してくれることに感謝。
そして、自分一人だけではなかなか出会うことが出来ない良作と繋いでくれるフォロワーさんに感謝。
のんchanさん、ありがとうございます。




背景は描かれていないながらも、夫婦に子供や身寄りがいないのは分かるし、近所付き合いも無さそう。
役所に行っても、親身になってくれる職員はいない。
預金は、日に日に減っていく。

ご主人は、本当に頑張っていたと思います。
それこそ、体に鞭を打って、奥さんを支えていました。
それにだって、限界はあります。
分かってはいたけど、そうならないように、と願いながらは見ていたけど、やっぱりご主人が怒りをぶつける場面は、見ていて本当に辛かったです。

あの年齢で介護、奥さんに怒りをぶつけてしまった自責の念。
どんな心中だったのか、考えてしまいます。
食事を食べて、栄養をつけてもらいたい気持ちと、食べたくないのに無理矢理食べさせられる気持ちは、どこまでも平行線。


病院で、若いお母さんが赤ちゃんのおしめを取り替えるのを見ながら思ったでしょう。
近所の公園で、老夫婦が孫と遊んでいるのを見ながら思ったでしょう。
自分が通ってこなかった道を、今こんな形で経験することになったこと。
自分にも、こんな道があったのかも知れないと、でももうそんな人生は後にはないのだと。

後悔というのとは違うでしょう。
ご主人には、奥さんとの人生が全てだったはずで、子供の世話をしたり、孫と戯れる夫婦を見て思うのは、微笑ましくはあるのだろうけれど、それは対岸の話。
子供や孫に時間を割くことはなく、全ては自分と奥さんの為に。

ご主人はとても優しかったんだろうな。
幸せだったと思います。
そして、奥さんはきっと歳を重ねても可愛い人だったんでしょう。
だから、ラストのあの無邪気な喜びようは、きっと子育てを経ず、ずっと恋人のような気持ちを持ち続けていたからじゃないかな、と思います。

ボートで向かい合う二人。
最後は、寄り添うように。
何も見せないように。

台詞は一切ありませんが、30分の短編の中に二人の愛情の深さが詰まっています。
だから見終わった後に、不思議と重い気持ちにはなりません。

監督は外山文治さん。
42歳ということは、僕より年下ですね😨
現在公開中の「茶飲友達」も、外山監督の作品です。
これは観に行かなきゃいけないかも。



僕の祖父の晩年の話になりますが。
よく眠っていて、何度か声をかけたんだけど全然起きなくて、しばらくしてから、ようやく目を覚ましたんです。
「今な、とっても気持ち良かったんだよ。
目の前が真っ白でな、でも誰かに呼ばれたから、目を覚ましたら、こっちに戻ってきたんだよ」

向う岸って、やっぱりあるんでしょうね。
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