Inagaquilala

祈りの幕が下りる時のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

祈りの幕が下りる時(2017年製作の映画)
3.8
監督の福澤克雄は「私は貝になりたい」以来、10年ぶり2度目の映画監督作品。2008年公開の「私は貝になりたい」では、そのダイナミックな演出が、やや作品を大味なものにしたため、原作とはミスマッチとなってしまったが、東野圭吾版「砂の器」とも呼ばれるこの作品に関しては、福澤の起用は見事にハマった。俯瞰による風景描写を多用した劇的状況設定、物語の流れをスピーディーに展開するテロップ、「縦」に動く印象的なカメラワークなど、数奇な運命に導かれた人々を描いた「新参者」シリーズ完結編を、実にヴィヴィッドに演出している。

阿部寛主演の「加賀恭一郎シリーズ」の前作、「麒麟の翼〜劇場版・新参者〜」では、監督は同じテレビ局で同年齢の土井裕泰だった。なぜ今回、監督が福澤克雄に変わったのかは詳らかではないが、福澤としては「私は貝になりたい」を監督したあと、テレビに戻り、「半沢直樹」や「下町ロケット」、「陸王」などで新たな分野を開拓して実績を積み、10年ぶりのこの劇場作品でリベンジを果たしたことになるだろう。さまざまな人々の運命が絡む内容で、人物関係の整理が要だと思われるが、それもタイトルが出るまでの25分間の導入部で的確に描写していく。演出の冴えが随所に感じられる作品だ。

テレビドラマからずっとこのシリーズで主人公の加賀恭一郎を演じてきた阿部寛も、あいかわらず不思議な存在感を見せている。物語がこと主人公の親族にも及ぶシリアスな展開なのだが、メリハリの効いたセリフ回しと独特の顔の演技で、印象深く切り回している。また物語のキーポイントとなる新進舞台演出家役の松嶋奈々子も複雑な役どころをきっちりと演じている。終盤、少しテンポを上げ過ぎて、やや物語に関して説明不足を感じる部分はあるが、概して観客を惹きつける福澤克雄監督の大胆な演出は高く評価したい。テレビ局に在籍しているだけに、そう頻繁に映画を撮るわけにはいかないだろうが、次回作も期待したい。
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