マクガフィン

祈りの幕が下りる時のマクガフィンのレビュー・感想・評価

祈りの幕が下りる時(2017年製作の映画)
3.7
謎に包まれた殺人事件を担当することで、主人公の過去が明かされる物語。原作未読。シリーズ・ドラマ未見。

序盤で2時間サスペンスドラマのテイスト作品だとわかる。スナックのママの演技力や一昔前のサスペンス風な哀愁漂う音楽は狙っている感があり、いきなり不安になる。
また、原作者の原発嫌いは相変わらずで、本人はニュートラルなスタンスを貫いて、さり気なく委ねている雰囲気を出しているつもりが、全く見当違いなことは如何なものか。

テイストは2時間ドラマだが、映画ならではの情報量の多さがあり、様々な時代・人間・場所の各パートがてんこ盛りで図式的。それを分かりやすく説明するために、テロップや捜査会議で使用される黒板に名前付の相関図が何度も映し出されることに苦笑するものの、清々しさが良い。

これは、シリーズ未見者への配慮や、観客を混乱させないためであり、黒板に人物の背景や関係がわかるたびに整理されるので説明的であるが分かりやすく処理が可能に。また、其々の人物の整理のつかない人間模様の葛藤とは対象的にも感じてくることが良く、阿部寛と松嶋菜々子の親子の対比も効果的に。

前半は人物の構築や作品や事件の根幹の説明が多く、平坦になりやすい前半パートを補うような捜査進展で一喜一憂する会議の模様が意外な人間味を加味するアクセントになり、春風亭昇太の表情や声がツボにハマる。
次第に明らかになっていく、予期しなかった後半の怒涛の展開と熱量に圧倒させられる。

昭和的で浪花節全開な松嶋の過去パートは、壮絶な宿命故の親子の絆は「砂の器」を彷彿するような破壊力と悲壮感があり、「人間の証明」を凌駕するパワーに満ち溢れる。
更に推理者である阿部の背景が大きく関わることは多少の強引さもあるが、人物背景や人間関係と事件の謎と過去のシリーズの謎が徐々に並行しながら明らかになっていく演出と構成は上手く、それらが相乗する哀れな因果関係を増幅し、因果による積み重ねと時の長さが相まって哀しさと切なさが極まる。

阿部が松嶋の部屋に聞き込みに訪れるシーンが秀逸で、壁一面に北斎の冨嶽三十六景「神奈川沖浪裏」を業火のように染めた異様な造形にハッとさせられる。一見下品だが松嶋の心象描写で、壁画の高く激しく渦巻く波に飲み込まれる模様が運命で、遠くから見つめる富士山(確認できなかった)が父親な映画ならではの背景描写に震える。
更に、その壁画をバックにした松嶋を飲み込もうとする波と、松嶋に隠れて見えない富士山のカメラワークはセンス溢れる。(原作にもあるのかと、もう一面のねぶた祭りの鬼のような壁画が何か気になる)

終盤の演劇に絡めた謎解き展開になるかと思いきや、そこは難しかったので省いたのかな。心象演劇を上手く絡めたら傑作になっただけに残念。

作風やテロップや相関図を取り入れたことで、映画評論家には評価されないだろうが(大ヒットすれば新聞関連の賞は取れるかも)、作品の熱量は素晴らしく、前知識が全くなくても楽しく鑑賞。
根幹の倫理を揺るがすような、少し罪に対して浄化するような気持ちを味わえた。

エンドクレジットの登場人物の豪華さに更に驚く。過去のシリーズに出ていた人達なのだろうか。小日向文世の娘は「サバイバルファミリー」同様に何故いつも綺麗なのかが最大の謎。