DBS

桜桃の味のDBSのレビュー・感想・評価

桜桃の味(1997年製作の映画)
4.0
「土と埃しかない」イランの僻地で、貧しいが満たされている人々(ジグザグ三部作に登場した全てのイランの人人)に、自殺後の埋葬を頼むが断られる。

ついに話を受けるおじさんが出てくるが、この人はそんな無為に満たされた人間ではなく思弁的な人間で、主人公に自殺を諦めさせるように現世の素晴らしさをマシンガンモノローグで説く。
その声はやはり文ではなく、音=熱で、もはや神の教条を超えた「人間」のリズム=生そのものに変化し主人公を、観客を包んでいく。ここがハイライト。

死ぬかもしれない主人公が、とうとう看取り人をみつけ、つまり死ぬ約束をみつけ、後は実行するのみとなった段であたふたし始め、飛行機雲を、、つまり生き生きとした姿の世界と遭遇するシーンは素晴らしかった。
何かの理由で極まった状態の人間が裸の世界と出会ってしまう「あの瞬間」を描いている。

途中、車が脱輪して人々が駆け寄り持ち上げるシーンは、人助け、「燃ゆる女の肖像」で火消しした人々の愛と類似。
ただ自分1人の壊れた心を通して観た世界に対して独りよがりに絶望している弱き人間と、そんな勝手な悲劇とは無関係である世界(善)の対峙だ。

最後のシーンはどういうことだろう?死を望む主人公はすなわち兵士だったのか。
DBS

DBS