うべどうろ

桜桃の味のうべどうろのレビュー・感想・評価

桜桃の味(1997年製作の映画)
3.6
 キアロスタミの作品というのは一貫して、「繰り返す問答」と、そこから見えてくる「人生の意味」を表現しているのだと僕は思う。その極地にあるものがこの作品ではないだろうか。
 自殺(しようと思っている、とは思えない)場所へと、主人公は繰り返し車を走らせる。その様子を、キアロスタミは丁寧に追いかける。そして、その中の会話もまた、「出身はどこ?」「仕事は?」などの基本的な問答を軸として、そこに宗教的あるいは寓話的な「生死」に関する物語が挿入される形をとる。つまり、この作品のほとんどがあるパターンの反復であって、それを通して、生きることの意味を主人公が再確認していくという構成だと思う。
 最初の軍人との会話では、主人公が上から目線で「人生」を語る。続いての宗教家との会話では、噛み合わない主張のなかで、「自殺の愚かさ」と「生きる苦しみ」が拮抗する。そして最後、まさに「殺す」ことを生業としている剥製技師によって「生きる幸福」を主人公は説いて聞かされる。その変化の中に、「老いること」の意味も隠されているのではないだろうか。
 そして、何より彼の映画ではその圧倒的な黄金色の自然描写が際立っている。ほぼ全ての作品がこの世界環境の中で描かれていて、イランの美しさとして、彼がそこに信仰に近い何かを抱いていることすらもうかがえる。
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