足拭き猫

桜桃の味の足拭き猫のレビュー・感想・評価

桜桃の味(1997年製作の映画)
3.9
会話中心で動き少なめなせいか家で見ていたら途中で寝てしまい2日間に分けての鑑賞となった。近々劇場でキアロスタミ作品が上映されるのだが、先日予告編をスクリーンで観て、今まで配信で観た作品も大画面で味わうべきだわ、と思った次第。

公開された年代はイランイラク戦争やアフガニスタン戦争とは時期がずれているようだが、軍隊所属の青年やアフガニスタンから来た若者が登場することに、主人公は戦争でとても大切なものを失ってしまったのだろうと思った。セメント資材発掘のための土地は殺風景で土ぼこりも激しく、色は褪せている、遠くにはコンクリートの建物で味気ない。他人に自殺を助けてくれることを望む主人公はまったく埒が明かず、その中を行き来しているだけ。出会った若者からのお茶やオムレツの誘いにはけんもほろろ、死の世界しか見えていない。

いきなり時間が飛ぶところが鮮やかだ、老人に出会い、生の喜びが語られる時から紅葉した木々が映し出され子供たちが走る姿が現れる。あれだけ肯定的な言葉で説得されると返ってつらいような気がするのだが、きれいごとを言っているだけに見える男が実は生を奪う仕事をしていることから、主人公はやっと相手の気持ちというものに目が向いたんだろう。空の飛行機雲や鳥たちにも気付き、「風が吹くまま」のラストの医者の人生賛歌の詩にも結び付いているよう。
だから最後は監督の今後の姿だと思いたい。華やかな桜桃の枝を抱いて仲間とともに生命あふれる緑の春を喜ぶ姿だと。