【桑の実に命を救われた経験】
アッバス・キアロスタミ監督の1997年の作品
〈あらすじ〉
バディは、自殺の協力者を求め、一台の車に乗ってさまよい続けていた。道中彼は、あるトルコ人の老人ゲバリに出会う。老人と話すうちに、絶望していたバディの心のなかに光がさし、彼はしだいに希望を見出してゆく…。
〈所感〉
評判が良いイラン映画なので鑑賞。うーむ、人生に本心から絶望した時に見たい、死ぬ前にまず見るべき一作だと思う。健常期にはちょっと難しい希死念慮がテーマ。自殺するなら他人に迷惑かけずに勝手に死ね!なんてよく人身事故の際に聞こえてくるが、自殺志願者はどうせ死ぬなら、最大限社会や他人に存在を認められて死にたいと思ったりするのだろうか。本作の主人公もわざわざ他人に看取ってもらうような形で埋葬を依頼するが、それも一つの現れだろう。本当は誰かに止めてもらいたいのではないか。自分は必要だと認めてもらいたかったのではないか。彼はまだ此岸に未練があって意識的にか無意識にか踏みとどまっている気がした。でも人の心の底やはり他人には覗けない。そんな難しさも感じた。無機質で殺風景なイランの不毛な土地だが、だからこそそこで生きることの大変さ、命の価値を実感させられる。「人生は汽車のようなものだ。ただ前へ前へと進んでいく。終着駅は死だ。ただ途中下車してはいけない。」と語る博物館の老人の言葉に自分も救われるようだ。最初から最後までずっと静かで重い調子なので、個人的にはそこまで楽しめなかったが、心にずっしりくる傑作です。