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桜桃の味のjjのレビュー・感想・評価

桜桃の味(1997年製作の映画)
5.0
こういう作品に遭遇したときに五感が揺さぶられるような感性を掘り起こしていきたいと思わされた映画でした。

自殺をしようと覚悟を決めた(ように見える)男性の半日。自殺を完遂させるための協力者を探している。もう後には引き返せないと頑なに自分の感情を言葉として表現しようとはしない。彼が何を考え、感じているのかを読み取ることは難しい。
個人的に印象的だったのは、彼の運転するレンジローバーが脱輪して動かなくなってしまったときに周囲にいた農夫たちが何も言わずににこにこしながら近づいてきて手助けをするというシーンだ。彼はそのことに対して窓ガラスも開けずに軽く手を挙げて会釈するだけだ。けれども、この何気無い人の親切心、交流の中にも「桜桃の味」があるように僕には思われた。誰かに迷惑をかけることも、また誰かに優しくしてもらうことも生きている者が享受することのできる特権だ。それらを自らの手で手離しては勿体無い。
序盤はやや退屈に感じていたが、終盤は真っ黒の画面にかじりついていた。しかしその後に見えたのはまたしても現実と虚構のシームレスな世界だった。世界は見る者の視点次第であるということの示唆と世界への慈愛を感じられる時間だった。

きっと見る人のタイミング、状況、年齢などで、感じることは様々なのであろう。折に触れて、苦しいときに再見したい。30歳、40歳、50歳…80歳となって見たときに何が見えるのだろう?
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