初アッバス・キアロスタミ。
<心の持ちよう>
今までは、幸せって何だろう?と考えることが多かった。
映画を通して自分の立ち位置を確かめて、まだ、やれる!と。。
一歩踏み出す勇気を映画からたくさんもらった。
今は、不幸せについて考えている。
不幸せって何?
…実はとても主観的なものだと気づく。。
今作、途中まではちょっと辛気臭くて観続けるのがしんどいなと思っていた。
報酬と引き換えに"明日の朝自分が死んだことを確認して土をかけてくれ"と持ちかける主人公に、違和感が先立ってしまう。
採石場のような所でせっせとプラスティックを集める男や、日がな重機を見張る仕事をする男の今ここを生きる力強さと対照的な主人公バディ(住む家もあり、ある程度お金も持っているよう)。
自殺したい理由が明かされない為、どう捉えて良いのかわからない。。
一度は車に同乗するも戸惑い、逃げる若いクルド人兵士。
神の意に沿わないと断るアフガニスタン出身の神学生。
そして、、
博物館職員で剥製師のトルクメン人の老人は、本意ではないとしながらもバディの言うことを引き受け、おもむろに自分の若かりし頃の話を語り始めたのだった。。
貧しくて生活がままならなくてもう生きることを諦めてしまいたいと思った時、ふと入った果樹園で見つけた桜桃の実。
一口食べた途端、あまりのその美味しさに堰を切ったように食べていたという、、
その後の心境の変化。
この世界に自分を繋ぎ止めるもの。
他にも沈みゆく美しい夕陽、そして昇り来る朝日、カラカラに乾いた喉を潤す冷たい泉の水、真っ暗な夜を照らす満月、星空、、
こんな素晴らしいものを、もう味わわずに死んでしまうのか⁈ 老人は問う。
私は、イソップ童話の"北風と太陽"を思い出していた。
なんと聡明な老人なのだろう!
押し付けずに、否定せずに、ひとまずバディの言うことを受け入れ、それからゆっくりと心をほぐしていく。。
そこからは、本人が考えること。
感じること。決めること。
彼は変わった。状況は何も変わらないのに心のありようが変わったのだ。
苦しくて仕方ないと悲観していたのが、まだやれるじゃないか!と。。
"不幸せと思えば、人間は皆不幸せだけれど、幸せだと思えば、皆幸せなんだ" と気づくのだ。
それに気づけたら、そこから一歩踏み出すだけ。
心の旅を終えた、ラストのすっきりしたバディの顔がとても印象的。
敢えて淡々と抑えたトーンが、じわっと真理を突いてくるように思った。
とてもシンプルなのにあったかくて、監督の人間を見つめる優しさを感じる作品だった。
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