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ドクター・ドリトルのsanbonのレビュー・感想・評価

ドクター・ドリトル(2020年製作の映画)
3.4
「藤原啓治」の遺作がこれかぁ…。

今作は「マーベルスタジオ」との契約が終了し「アイアンマン」の強すぎるイメージから脱却を図らなければならない「ロバート・ダウニーJr.」にとっての再起作であり、癌でお亡くなりになった藤原啓治さんにとっての生前最後の仕事でもあるのだが、そのクオリティは残念な程に超凡作であったと言わざるを得ない。

まず、キャラの個性が弱いうえに、それを際立たせる演出が下手糞過ぎる。

今作は、動物と会話が出来る獣医の「ドリトル」と、その屋敷で助手として共に暮らす様々な生き物達との、常識ではありえない掛け合いが最大の売りとなっており、その異種交流こそが今作におけるアイデンティティなのだから、いかに面白い会話が創作出来るかが最も肝心であり、その為にもキャラクターの味付けは濃すぎるくらいでないと味気なく感じてしまうというもの。

ましてや、起用されている俳優陣は豪華な面々ばかりで、アクの強い顔ぶれが揃っているのであれば、尚のこと個性溢れるキャラクター作りに力を入れていなければ、正に宝の持ち腐れとなってしまうのだ。

というか、残念ながらなってしまっていた。

そして、この作品で主に行われているキャラメイクの理論は、いわゆる"ギャップ"を活かした方法がとられている。

それは、人間嫌いな医者だったり、臆病なゴリラだったり、寒がりなシロクマだったりと、その動物や業種における一般的なイメージの真逆を突いた特性を加える事で、キャラが立つよう仕向けているのだ。

これ自体は、凡庸ではあれ面白くはなり得る手堅くも無難なアイデアなのだが、今作が駄目なのはそのせっかくのギャップを面白さへと全く転換出来ていない点にある。

例えば、臆病なゴリラならめちゃくちゃビビッてパニックを起こしながらも、敵は軽々とねじ伏せるくらい態度と行動がチグハグでいいし、寒がりなシロクマというのなら、普段からめちゃくちゃ着込んでいるくらいが明快で面白いし、暑さには逆に強いくらいのキャラ付けはあった方がいい。

その理由は、ギャグとは"分かりやすさ"が先立って必要な部門なのだから、それを視覚的にも"誇張"するのはとても大事な事であり、本来そのくらいの強調をしなければ、なんでそういう設定にしたのかという点において、"理由が不明確"となってしまう点にある。

そして、多くの方が失念してしまいがちだが、キャラクター設定にそうやって意味を持たせる作業は実は非常に重要な事だ。

何故なら、その設定を踏まえたうえでキャラの思考や行動が決定づけられていくのなら、そのキャラが息づく物語の方向性もまた、その設定によって左右されるものと言っても過言では無いからである。

そうなると、劇中で敵艦から逃れる為にシロクマが海に飛び込みアシストをする展開を例に挙げると、シロクマに寒がりという特性を付加したのなら、そのシロクマが海に飛び込む流れは本来ナンセンスであり、飛び込んだとしてもそれに付随するデバフ効果をシロクマに対してなにかしらやっておかなくては辻褄が合わなくなるのだ。

そしてなによりも、せっかくキャラを活かすために付け加えた設定が、これでは全く意味を成さなくなってしまうのだが、今作はそんな事一切お構いなしに、躊躇なく飛び込んでは船上に戻った後も何食わぬ顔でピンピンしているのは、キャラの個性をあまりにも無視しすぎなのである。

その上で、キャラが弱ければストーリーまで弱いのだからもはや救いようがないというもの。

とはいえ、実のところ「エディ・マーフィー」版よりもかなり原作には忠実に作られている本作。

舞台が中世イギリスなのも、ドリトルが動物と会話が出来る理由が、超能力ではなくインコにその術を教わったからだというのも、実は原作のエッセンスそのままなのだ。(実は、原作ではインコこそがチートキャラ)

ただ、だからといってこのクオリティではわざわざ豪華俳優を揃えてまでリブートした理由にはなっておらず、つまらない言い訳にもならない。

それ程までに、お決まりのパターンをテンプレしたかのような展開ばかりで、目新しさもなければ安定した面白さが担保されてる訳でも無い、製作側の力量不足が如実に露呈してしまった作品という印象である。

また「ドラゴン」が出てきた事は百歩譲って目を瞑るとして、その和解の方法が何故放屁なのか。

つがいのドラゴンに先立たれた悲しみで凶暴化したかのような前振りをしておいて、お腹にガスが溜まっていて苦しかったからと理由をすり替えたのは、それが面白いと思ったからなのだろうか?

だとしたら、その感覚はかなりズレている…。

そして、そんなズレが積み重なってか、物語全体がチープな出来に仕上がってしまっていた。

これでは、舞台を現代にアップデートしたエディ版の方がよほど作品に対して真摯だったし、なにより真の主役である動物に対して、全編フルCGの今作とは違い本物を起用するこだわりがあった分、旧作の方がよほど優秀であったと言わざるを得ない。
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